今日はタイトルの通り、私がまったく何もない状態から、どういう風に応募用の小説を着想し、実際に組み立て、そして落選まで辿り着いているのかを、順序立てて書いてみようと思います。
なにぶん行き着く先が「落選」なので、どう考えても景気の良い記事ではないのですが、世の中には「小説を書いてみたいけど、どう書いていいかわからない」みたいなところで悩んでいる方もおられると思うんですよね。
そういう方には、「良い小説を書く方法」とかより、まずは当記事で扱うような等身大の作業工程のほうが役立つ可能性もあると思うので、それを信じて書いてみます。
なお、以下はあくまでも私個人の作業工程を紹介したものであり、この通りにやりましょうと指南する意図はまったくありません。
その点をご了承いただければ幸いです。
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その1:タイトル
私はまず、作品タイトルを考えることから始めます。
常日頃から何となくアンテナを張り続け、ビビッと来るワードに出会ったら、それをこねくり回して、魅力的なタイトルにすることはできないかを考える。
それが習慣になっています。
ここで言う「魅力」とは、漢字とかなのバランス、口にしたときの響き、意味深なニュアンス、そういったことすべての総合力ですね。
あくまでも自分のセンスを基準にしたものであり、他人がどう思うかはまた別問題ではあるのですが、とにかくこの段階にはこだわります。
おおむね良いのだけど、ある意味においてのみ美しくない、みたいな場合、それが解消されるまで寝かせ続け、これというアイディアが湧くのを待つ。
その時間は惜しみません。
そのようにして良いタイトルが浮かんだら、それをストック(メモ)しておきます。
現在のところ、ストックは30くらいありますが、もちろんその中にも優劣は存在するので、「今すぐにでもこれを書きたい」というものは5~6個に絞られるでしょうか。
その5~6個について、大まかな舞台と、主人公&最重要脇役を考えるのが次の段階ですね。
この時点では、タイトル以外のメモは一切取りません。頭の中で漠然としたイメージを少しずつ増やしていくに留めておきます。
細かいところは、後からいくらでも変わり得るので。
やがてその5~6個の「タイトルとイメージのセット」の中から、もっともかたちにしてみたいものが自分の中で決まります。
それを次に書く小説に決め、具体的な作業に入っていきます。
その2:設定とキャラクター
すでに考えてある「大まかな舞台と主要キャラ」を軸に、まずは具体的な設定を考えていきます。
このとき、私は「セレンディピティFA法」というアイディア出しの方法を使います。
これは『アイデアを脳に思いつかせる技術』という本が提唱しているもので、自分が無意識的に重視している日常のワード同士を連結させて、新たな何かを生み出すテクニックです。
詳しいことは、当の書籍を紹介しておきますので、そちらをお読みいただければと思います。
設定を考えていく段階で、「これを機能させるには、こういうキャラクターが必要だな」というような「事情」が生まれてきます。
その事情に合わせるかたちで、簡単なキャラクター造形を考え、メモしていきます。
この時点ではざっくりした情報に過ぎません。まだそのキャラクターを本当に作品に登場させるかは決まっていないからです。
キャラクター案を進めていくと、今度はそれが逆に新しい設定に繋がったりもします。
このようにして、設定とキャラクターを相乗効果的に少しずつ膨らませていく。この作業がしばらく続きます。
そうこうしているうちに、「そろそろ固めどきだな」と感じる段階が訪れるので、そうなったら設定のネジを締めつつ、キャラクター数の調整を行っていきます。
この時点で、だいたいどういう展開になるかは頭に浮かんでいるので、登場人物の適切な数というのも掴めている。それに合わせるわけです。
人数にルールなどというものはないので、必然性があると信じられるならば、100人登場させようが、逆に主人公しかいなかろうが構わないと思うのですが、一般的には8~15人くらいに落ち着くのではないでしょうか。
キャラクターが決まったら、それら一人一人の履歴書を作っていきます。
これを作ることにより、キャラクターの背景を膨らませたり、共通する出来事が起きたときにそれぞれ何歳だったか、みたいな整理がついたりするわけですね。
迷ったら履歴書に戻る、みたいな「着想の軸」としての役割が期待できます。
履歴書の項目をどんなものにするかは、人によって分かれるところなので、正解というものは恐らくありません。
最初の手がかりが欲しい方は、「キャラクターの履歴書」などで検索してみると、いろいろなテンプレートを得ることができると思います。
キャラクターの履歴書を作る過程で、舞台設定のほうもどんどん固まっていき、やがてほぼ同時に、両者とも本決まりすることになります。
その3:プロット
次にプロットを作り始めるわけですが、これも人によって作り方がまったく異なっており、こう書きましょう、みたいなことが言えない難しさがあります。
要所要所の出来事を簡単にメモするだけの人や、キャラクターの動きをかなり細部までこの段階で決めてしまう人など、本当に人それぞれらしいんですよね。
実のところ私も、どのようなプロットが自分に合うのかというのを、未だ模索している状態だったりします。
変化としては、初期の頃より今のほうが、内容が細かくなりましたね。プロット段階でいろいろなことを決めてしまうようになりました。
もちろん、実際に執筆を始めてから細かな変更をすることはありますが……。
参考までに、先日電撃大賞の二次選考に落選した私の小説の、第一章のプロットを挙げてみましょう。
◆テオーリア:王室会議――密偵によれば・魔人の介在・足のつく選択はすまい・式典の規模と傾向・金獅子、エルクラークとの対話――威光路線と和平路線・民意は・バルジの食欲・子飼いが二匹、眠り――母の思い出、
この小説は群像劇で、一章ごとに主役が変わります。冒頭の「テオーリア」というのは、第一章の主人公の名前ですね。
このプロットから、42字×34行×9ページの本文が生み出されました。
たぶんこれは、プロットとしては荒いほうに属するでしょう。平均的な字書きは、もうちょっと細かいプロットを立てるのではないかと思います。
しかし先述したように、以前はもっと短かったのです。よくそれで書けたものだと、今にしてみれば不思議です。
ちなみに、プロが企画を通すときは、恐らくもっとちゃんとしたプロットを作る必要があるのでしょうね。
上記のプロットは「私自身にしかわからない」書き方になっていますが、企画を通すときにそれでは、何の意味もありませんから。
その4:本文
そしてプロットをもとに、本文を執筆する作業に入ります。
ここがいわゆる「小説を書く」という行為の本丸であると言えるでしょう。
私にとっての本文執筆は、プロットに書いた一言を細かくしていく行為、に他なりません。
いろいろなものを混ぜて、引き伸ばして、かたちを整えて、自分以外の人間にも通用する説明に変換していくのです。
それは、すでに定められた段取りをコツコツとなぞっていく作業であると同時に、小さな即興の絶え間ない連続でもあります。
プロット段階では考えていなかったことをあれこれ考えては盛り込んでいく。結果として、当初はまったく存在しなかったディテールが生まれることもよくあります。
本文執筆において私がいちばん難儀するのは、ある描写とべつの描写のあいだに何かを挟まないとリズムが悪くなるが、挟み込むべき適切なものが思い浮かばないときでしょうか。
いわゆる「執筆の手が止まる」いちばんの原因が、私の場合はこれになります。二日も三日も悩むことはないのですが、細かく時間をとられる事情ですね。
次に厄介なのは、文末を多彩にすることなのですが、これはある程度文章が出来上がってからまとめてチェックするので、最初はまず勢いに任せて書いてしまうことに専念します。
文章を書くという行為には、ある程度の勢いが不可欠なので、最初から完成されたものをしたためていこうと思うと、推進力に欠けるものになってしまうんですよね。
まずダダダッと書く。そしてある程度のところで止まり、それまで書いたものを振り返る。このリズムについても、自分に最適なものを見つけることが大切になります。
それから、地の文と台詞の並べ方なども気になるところですね。
読んで美しいだけでなく、改行バランス等を含めて「見て美しい」ものを書きたいというこだわりがありますので、かなり気を遣うところです。
この辺りについては、以前「文体」をテーマに記事を書きましたので、そちらをお読みいただければと思います。
本文の執筆は長丁場です。
大切なのは、毎日必ず書いていくことだと、私は思っています。
「今日は筆が乗らない」とか、そんなことを言っていいのは大御所だけ。私達は調子が良かろうが悪かろうが、毎日自分で決めた量を絶対に書き進めていくべきなのです。
そういうことをしないと挫折する率は高まりますし、逆に言えば、書き続ければ必ずゴールに辿り着きます。
SNSで毎日の進捗を書くなどして、自分を追い込むのが良いかと思います。
その5:推敲
初稿が仕上がったら、(場合によっては数日置いてから)推敲を始めます。
ここに物凄く時間を書ける人もいます。プロでいうと、例えば村上春樹さんなどは、初稿を上げるのにかける期間と、そこから脱稿までにかける期間がほぼ同じだという話を、どこかで読んだことがあります。
また、推敲によって変更する度合いも人それぞれで、極端な話としては、削りに削って半分くらいに縮んだとか、1.5倍に膨れ上がったとか、中身をかなり入れ替えたとか、ほとんど最初から書き直したとか、いろいろな逸話がありますね。
私の場合は、本文執筆の時点でかなり整えながら進めているせいか、大掛かりな推敲をしたことがまったくありません。
ほぼ誤字脱字の修正作業だけです。
まあ、それで落選しているのですから、実際には何かそこで改良点を見つけなければいけないのだと思うのですが、なにぶん私は、書いてから数年だった自作を読み返しても直したくならない人間なので、たぶん数日寝かせたくらいではどうにもならないと思うんですよ。
なので今のところ、自分は推敲にはあまり縁がないのだと割り切ってやっています。
その6:応募
私が応募しているのはラノベ新人賞ですが、現在はほとんどのメジャーな新人賞が、web応募を受け付けています。
私ももちろんその方法で応募しています。
ただ、最初に電撃大賞に応募したとき、あの賞はまだweb応募に対応していなかったので、すべて印刷し、パンチ穴をあけて紐で縛り、封筒に入れて切手代を払ってポストに投函するという古典的な段取りを経験しました。
今はもう、あんなことは絶対やりたくないですね。web応募の手段を用意していない賞は、よほど穴場で賞金が高いとかでない限り、スルー対象です。
仕方のないことですが、応募してから最初の選考結果が出るまでは、本当に長く感じます。
まあ他のこともいろいろやっていますから、毎日毎日応募小説の行く末ばかり案じているわけではないのですが、それにしてももどかしい。
かといって下読みさんに適当に読まれるのも困るので、これはジレンマです。
いちばん良いのは、選考を待つあいだに、さっさと次の小説を書き始めてしまうことでしょうね。
それがもっとも確実に、時間の経過を早めてくれることなのではないかと思います。
その7:どこかの段階で落選
そして待ちに待った選考結果の発表がやって来るわけですが、今のところ私は、どこかの段階で必ず落選しています。
気持ちの問題としては、一次選考で落ちるよりも三次選考で落ちるほうが「認められた」感があって幸せなわけですが、どっちにしろ落選であることには変わりありません。
三次落ち程度では、いわゆる「拾い上げ」が発生する可能性もほぼゼロに等しいので、本当にそれはただの落選でしかないのです。
毎回、選考結果の発表の際にはドキドキしますが、一方で落選することに慣れてしまった自分もいます。
ぶっちゃけ、もし自分の作品が佳作でも奨励賞でも何でもいいから引っかかったら、そのときはたぶん、嬉しいという以上に驚いてしまうのではないかと思いますね。
え、いいの? みたいな。
落選した直後は、それをwebで公開するか、べつの賞に使い回すかで、いつも悩みます。
結果として、今のところは使い回しを選び、あちこちの賞に送りまくってきたのですが、今後どうするかはまったくの未定。
もしかしたらそう遠くないうちに、どこかのサイトでこれまで積み重ねてきた落選作の山を公開するかもしれません。
そのときはぜひ、お暇のあるときで構いませんので、読んで感想などいただければと思いますね。
その8:選評
電撃大賞の場合、一次選考を突破した作品は、必ず編集さんの選評を受け取ることができます。
賞の中には、一次選考で落選しても受け取れる場合があるので、他人の評価を確実に読みたいという場合は、そういう賞に応募してみるといいでしょう。
しかし個人的な感想としては、選評はあまり役に立ったことがありません。
人によって言っていることがまるで違っていて、「つまりどうすればいいの?」という八方塞がり感ばかりが増していくからです。
まあ、フィードバックを得るセンスのある人なら、そういう矛盾した複数の選評の中からでも、何かしらを学び取って次に活かすのでしょうが……今のところ、私にはそういうことはできておりません。
そんなわけで、私の選評の使い方は、褒められた部分を反芻して活力の源にする、という、良いんだか悪いんだかわからないものに留まっています。
しかしそれでも、選評をもらえること自体が楽しみなのも事実。
今回二次選考で落選した小説の選評を受け取れるのは秋なので、それが今から待ち遠しかったりする、今日この頃です。
おわりに
……とまあ、これが私の「作り始めから選評まで」の全行程ということになります。
書き慣れている方には今さらな内容だったと思いますが、初心者の方には、それなりに「へえ」と思える部分もあったのではないでしょうか。
というか、せっかく書いたので、そうあって欲しいです。
今のところ、私のこの執筆スタイルを変える予定はないのですが、どこかに改良の余地があるかもしれない、というのは常に考えていることです。
なので、ある日を境に、急に「プロット作るのやめることにしました」とか、言い出さないという保証はありません。
その際は、「なるほど、このlokiという奴も結構迷っているのだな」と温かい目で見ていただけると嬉しいです。
ちなみに、来年の電撃大賞に応募する予定の次作ですが、まだ当記事で言うところの「その2」の段階で止まっています。
このブログを優先しているのでなかなか時間が取れず、進捗はほぼ完全ストップ。
先は長いと言わざるを得ません。しかし締切である来年4/10には何としても間に合わせたいと思っております。
もちろん書くからには大賞を目指しますので、そのときにはぜひ買って読んでいただきたいですね。
と、最後は皮算用で締めくくりたいと思います。
全ての文字書き必見。推敲も校閲も面倒見てくれます。
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