今日は、創作活動において、経験がどのように力に変わっていくのかについて、少し書いてみようと思います。
こういうのはたぶん、プロもアマチュアも原則的に変わらないところではないかと思うので、その辺りの区分けはせずに書いています。
それをひっくり返して言うと、アマチュアがプロになるために肝に銘じるべきこと、になっていると思うので、創作でプロを目指そうとしている方は参考にしていただけると良いのではないかと思います。素人の意見ですが。
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あらゆる創作に共通する真理
発祥がいつなのかはわからないのですが、ずいぶん以前からネットで良く目にする格言めいた言葉に、次のようなものがあります。
「創作における経験値は、作品を完成させたときに一気に入ってくる仕組みになっている」
当記事を書くにあたって、誰が最初にこれを言い出したのかを少し調べてみたのですが、残念ながら源流には辿り着けませんでした。
すでにある程度拡散と浸透が済んでおり、定説のようになっていて、検索するとたくさんの人が同じことを語っているのが目に留まります。
曰く、未完の超大作の挫折経験をいくら積み重ねても、それではまとまった力は身につかない。それよりも数多くの駄作を完成させる経験を積み重ねたほうが、確実に実力はついていく。
この言葉の興味深いところは、創作のジャンルに依らない、ということにあります。
漫画を描くにせよ、小説を書くにせよ、そしてその他様々なものすべてについて、まあだいたい同じようなことが言われている。
いわゆるフィクションを創ることに留まらず、例えばプログラミングの分野においても、一つのまとまったソフトウェアを完成まで持っていくことがとても重要なトレーニングになることは謳われています。
どうやら、一人の人間が「モノをつくる」ということ全般において、これは重要な意味を持っているらしい。
とにかく作りきれと。完成したときに初めて、それまでやってきたことが一気に価値あるものに変化するので、とにかくそこに漕ぎ着けることに力を注げと。
根性、という言葉は好きではありませんが、完成させるまで頑張って作業を続けないと、せっかく費やした時間と労力が無駄になってしまうというのであれば、歯を食いしばってでも、一度作り始めたものは最後まで作り切るべき、という結論になるでしょう。
完成させることの価値
では、何故そのようなことが言われているのでしょうか。
それが単なる幻想でないのだとしたら、どのような仕組みで私達の創作活動は「完成後に経験値が入る」仕様となっているのでしょうか。
これについては、以下の3つが言えるのではないかと私は考えます。
未完を積み重ねていては最終行程を経験できない
これは単純な話ですね。
たとえばイラストを描くとして、ラフを描いて、下描きをして、それを清書して……というあたりで毎回挫折していたら、いつまで経っても色塗りや、最後の細かい仕上げ作業を経験できないことになります。
小説なら、設定を作って、プロットを立てて、本文の執筆を始めるものの、毎度途中で止まってしまう、というのが当てはまるでしょうか。この場合、「物語を終わらせる」「推敲をして全体を整える」という重要な経験が、いつまで経ってもゼロのままなわけです。
作業すべてのうち、ある特定の行程にのみ変にハマってしまうと、そういうことになる危険性は高まりますね。
例えば、キャラクターの顔を描くのは好きだけれども、全身を描く気にはどうしてもなれないとか……。
一所懸命考えた設定が、本文を書き出すと「どんどん小さくなっていく」のが嫌で、ひたすら設定ばかり幾つも作り込んでいくことにのめり込んでいるとか……。
「好きこそものの上手なれ」という諺がありますが、「好き」のかたち次第では、罠にもなり得るのだという、わかりやすい例なのではないかと思います。
完成した後にしか、各行程をまともに検証できない
ある作品をゼロから作り始めて完成させる過程には、幾つもの段階を経る必要があります。
それらは作業としては独立しているところがあり、ときおりそれ自体が一つの完結されたものであるように感じられることもあります。
例えば設定作りでいうなら、それを作りきった時点で気持ち的に一区切りついてしまうところがあり、それをもとに物語を作っていくのは、またべつの話であるように思えてくる。
ですがもちろん、実際にはそうではありません。
それらすべてはあくまでも、作品を完成させるために行っている「途中過程」なのです。
つまり、どんなにその作業の一つ一つが楽しかったとしても、その内容が「完成品から見て貢献度の低いもの」であるならば、そこには改善の余地があることになる。
ここに、作品を完成させなければ経験値が入らない理由を見ることができます。
設定や下描きやプロット等々が、本当にそういう作り方で良かったのか? どの部分が完成に深く寄与し、どの部分が余分だったり、邪魔になったりするのか?
そういったことは、完成させた作品を見ながら逆算的に検証していくことで、初めて見えてくるものなのです。
完成させるまでは、「そのやり方が本当に完成品のためになるのかどうか」という、いちばん大事なことがわからないままなわけですね。
従って、作品を完成させなければ、真の「設定力」「下描き力」「プロット力」等は身につかないのだ、と言うことができるでしょう。
達成感による精神的な支えが増える
これは精神論かもしれませんが、とても大切な要素だと私は考えています。
一つでも作品を完成させると、「自分の力でそこまで持っていくことができたのだ」という歴史が一つ刻まれるわけで、これがその後の創作活動における大きな自信になるのです。
その自信が、後々いろいろピンチになったときに、自分を支えてくれることになる。
例えば新しく小説を書く際、新規作成したファイルには言うまでもなく1文字も入力されてはいません。
長編を書こうというときなどは、目に映るそのまっさらな状態と、頭の中にある目安としての完成原稿の文字数のあまりの違いに、クラクラしてきます。
この何もない状態から、物語として成立している10万文字の文章を生産しなければならないのか――それを考えて、最初から一切怯まないという人は少数派でしょう。
ですが作品を完成させた経験を積み重ねていくと、まだ何も考えていないうちから、次のような発想をすることができるようになるのです。
「今はファイルも頭の中も真っ白だ。でも自分には、○ヶ月後にこれを完成まで持っていけることがわかっている。なのでそこは心配していない」
これは大きなことです。ここに確信を持つことができれば、あとは日々の作業を淡々と積み重ねるだけだからです。恐怖を抱くことはもはやありません。
最初に生み出した創作物が、いきなり世の中の無数の人間の心を強烈に揺さぶる、なんてことができるのは、一部の天才だけ。
その他大勢の創作者にとって、初期作品とはつまり、他人に通用するものを作れる自分を作っていくものであると言えます。
その意味で、作品を完成させた経験からもたらされるこのような自信には、非常に大きな意味があると言えるのではないでしょうか。
私の場合
私は小説を書いて、ラノベ新人賞に投稿を続けている人間です。
まあ恥ずかしながら、4年以上続けてまだ賞に引っかかったことは一度もないのですが、当記事のコンセプト的に言うなら、もう何本も作品を完成まで持っていった経験はあります。
その経験によって何か得られたかというと、これは「はい」というのが回答になりますね。
私の場合、いちばん大きいのは先述の「自信」です。今はもう、作り始めれば絶対に完結まで持っていけるというのを、当たり前の感覚として持っている。
プロットまで作った段階で、だいたい一日にどのくらいの文字数を書いていって、どのくらいで初稿が出来上がるのか、おおよそのところはわかりますし、そのスケジュール通りに進めていくことができる。
これは間違いなく成長だと思っています。
一方で方法論については、まだいろいろ迷っている状態ではあるでしょうか。
何しろ結果を出せていないので、ここで作業行程をガチガチに固めてしまうのはあまりよろしくない。
今はまだ改善点を探っている状態です。
しかしこれも、何本も完成させたことがあるからできる模索であって、初めて小説を書くときには到底考えられないことでした。
その意味ではこれも成長の一つであると言えるでしょう。
ちなみに私がいちばん好きな作業行程は、何と言っても本文の執筆です。
それに比べると、舞台やキャラクターを考える初期行程などは、ちょっと面倒臭さを感じてしまいます。
その段階では「アイディアを思いつけるか思いつけないか」の勝負なので、かけた時間に比例して作業が進むわけではないという点も、精神衛生上あまり良くないですね。
しかし逆に、世の中にはとにかく設定を考える段階が好きという人もいるので、一口に「小説を書いている」と言っても、そのスタイルは本当にいろいろです。
おわりに
一つの作品を仕上げるまでには、複数の異なる作業が必要になる。
その意味では創作というのは、結構「一人でいろいろやる」ものであると言えます。
あっちの作業とこっちの作業とで、ほとんど別人格のようにならなければ上手く事を運べないこともあったりします。
作品を完成させたことがある、というのは、それらを一通りこなしたことの証明であると言えるでしょう。
そのご褒美として、経験値がドカンと入ってくるわけですね。
これをお読みになっているあなたがもし、何か創作をしているがなかなか完成まで漕ぎ着けられずにいる方なのであれば、とにかく一つでいいから、必死になって最後まで作り上げることをオススメします。
それさえ経験してしまえば、2作目からはどんどん楽になっていきます。
もちろん、続けていけばまたべつの問題(例えばスランプ等)が発生することもあり得るわけですが、少なくともあなたが今感じておられる「完成までの壁」は、一度でも完成を経験することで、たいしたものではなくなります。
その感覚を、ぜひとも味わっていただきたい。
……なんて偉そうに言っている私も、まだ全然他人には認められていないわけで、今後もどんどん改善していかなければなりません。
お互い、一つ一つの作品をきっちり仕上げていき、まとまった経験値をしっかり手に入れ、着実にレベルアップしていきましょう。
全ての文字書き必見。推敲も校閲も面倒見てくれます。
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