中国輸入ビジネスの大失敗談、第9回です。
続き物となっておりますので、第1回目の記事から順にお読みいただければと思います。
想定外の攻撃
それは、第二の商品の販売を本格的に始めてから10日ほどが経過した、2/14の夜のことです。
いつものように、検索結果に自分の商品がどう表示されているかをチェックしていたところ、まずスポンサープロダクトの枠に表示されていないことに気づきました。
また広告費の上限額を超過してしまったのか――最初はそう思いました。
しかし、間もなく異変が起きていることを理解します。
スポンサープロダクトだけでなく、本来の商品の表示位置、つまり検索第二位の位置にも、商品の姿がなかったのです。
あれ? もしかしてランキングが下がったのか?
そう思って、検索結果をずっと辿っていったのですが、1ページ目の終わりまで行っても見つかりません。
まさか2ページ目に落ちてしまったのか?
混乱しながら2ページ目をクリックして調べてみたのですが、そこにもありませんでした。
どういうことだ――?
それ以上は埒が明かないと思い、ブランド名と商品名で検索したところ、なんと「お探しの商品は見つかりませんでした」の文字が。
これは「順位」の問題ではない、ということをこのとき悟り、慌ててセラーセントラルを開いてみました。
すると、画面上部に、禍々しく表示された警告の表示が。
それをクリックしてみると、次のようなメッセージが現れました。
「他の出品者の意匠権を侵害している可能性があるため、出品を停止しました」
そう、何者かの「通報」を受けて、私の商品にルール違反の疑いがかけられ、それが解決されるまでは出品停止、というAmazonからの処置を食らってしまったのです。
機械的なAmazonと中国人権利者
正直、それはまったく想定していなかった事態でした。
意匠権、という言葉は一応知っていましたが、それを侵害している可能性などまったく考えていなかったのです。
その理由は明白で、類似商品がAmazon内に軽く二桁は存在していたから。
私はそれらの小さいバージョンをオリジナルブランドで出しただけであり、もしそれが意匠権を侵害しているというなら、他の商品はいったい何なんだ、ということになりますよね。
早速このことをSさんに報告したところ、「J-PlatPat」ですぐにチェックするようアドバイスをいただきました。
J-PlatPatとは、特許関係のもろもろを検索することのできるサイトで、意匠権についてもここですべて調べることが可能となっています。
Amazonからのメッセージには、侵害していると疑いのかけられた意匠権番号が記載されていました。
J-PlatPatでその番号を検索してみたところ――出てきたのは、確かに系統的には同じ商品。
しかし、細かいところを見てみると、Amazon内で売られている同系統のほとんどの商品とは異なっています。
少なくとも、私の商品が、それらの商品より登録された意匠に似ているということは一切ありませんでした。
この段階で、状況を100%理解することができました。
つまり、伸びを見せている私の商品が、何者かに嫌がらせ的に狙い撃ちされたのです。
すぐAmazonの然るべき部署に連絡を入れました。
意匠権侵害の疑いがあると言うが、調べてみたところ、これこれこういう点で、侵害しているとは言えないし、同様の商品はAmazonの中に幾つもある。
だから出品停止を解除してもらえないか、と。
しかし、Amazonからの返答は、何と言うか……とても機械的でした。
「ご連絡をいただいた件につきまして、出品者様の申し立ては、権利者から受領した報告に対応していないためお受けすることができません」
そう突き放された挙げ句、次の二つを要求されたのです。
一つは、意匠権侵害を報告した権利者による取り下げがあること。
もう一つは、私の商品が意匠権侵害をしていないことを、明確に証明できるものを提出すること。
このうち後者については、何を提出するのが「明確な証明」になるのかがわかりません。
そうなると前者に賭けるしかなかったわけですが……Amazonのメッセージに記載されていた前者の名前とメールアドレスが、私に絶望感を与えました。
中国人と思しき名前と、彼らがよく使うqq.comのアドレスだったのです。
そう、中国人業者による通報だったわけですね。
もうこの時点で、「話をして通報を取り下げてもらう」というのが無理であることは、何となく察しがつくというものです。
権利者の正体は?
それでも一応、やれることはすべてやっておくべきということで、そのメールアドレス宛に、謝罪のメッセージと、通報取り下げのお願いのメールを送信しました。
しかし、予想されたことではありますが、完全無視されてしまいました。
当然です。相手はこちらを潰そうとして通報したわけですし、このまま放っておけば私の商品は潰れてくれる可能性大なのですから、私に対応するメリットが相手にはありません。
私は再びAmazonに連絡しました。
権利者にメールを送ったが反応がないことを告げ、もう一度、自分の商品が意匠権侵害をしているとは思えない根拠について、細かく並べ立てて「説得」を試みました。
しかし、Amazonからの返答は、同じことの繰り返し。
権利者の取り下げか、侵害していないことを示す明確な証明がなければダメ。
しかも今度は、期日までにこの問題が解決しなければ、アカウントの停止もあり得るという警告までついてきました。
ちなみにこの時点で、「権利者」の正体は恐らくトップの商品を売っている中国人セラーなのだろうな、という見当はついていました。
もしそれ以外のセラーが権利者であるなら、私の商品より先にトップの商品のほうを潰しているはずだからです。第二位の商品にのみ狙いを定める必然性がありません。
しかしそれがわかったところで、どうにかなるはずもなく……。
ああ、このトップの商品はきっと、有力なライバルな現れるたびに、この方法を使って潰してきたんだろうな。だからこの市場は一強状態が保たれてきたのだろうな。
……ということが、ありありと想像できるのみでした。
Amazonにはこの後も数回、陳情のメールを送ったのですが、返答の内容はすべて同じで、文字通り、のれんに腕押しでした。
ChatWorkのログによれば、この時点で第二の商品の在庫は1,114個。まだ100個も売っていない段階で、このような事態に陥ってしまったのです。
何としても販売再開に持っていかなければならず、そのためにはどうやら、何らかの戦いをして「勝つ」しかないようでした。
そして弁護士事務所へ
Sさんからいただいたアドバイスは、弁護士に相談してみてはどうかということでした。
弁護士。いよいよ話が大きくなってきます。
二つの意味で抵抗がありました。あまり話を大きくて尖ったものに発展させたくないなということと、弁護士に何かを依頼するにはそれなりの費用が必要で、自分にはそれを支払う能力がないのではないかということ。
しかしとにかく、私は市内の弁護士事務所で、意匠権などの特許関係に強そうなところを探してみました。
横浜というところはまあ大きなところなので、こういうときに自分のニーズに合ったものを見つけるのはそれほど大変ではありません。
割と簡単に足を運べる場所に一つ、今回のケースに適切と思える事務所がありました。
しかも初回の30分までは無料相談をしてくれるとのこと。資金繰りでボロボロの状態の私にとっては、渡りに船のサービスです。
早速その弁護士事務所に、相談のメールを送ってみました。
今陥っている状況を簡潔に伝え、この内容が相談に値するかどうかを訊ねました。
返ってきたメールは、「相談を承る」というもの。
とりあえず、お金をかけずにその道のプロの意見を聞くことができるというだけでも、前進と言えました。
予約したのは2/22。
私は商品の実物と、Amazonとのやり取り及び意匠権の情報を印刷したものを携え、その弁護士事務所に向かいました。
相談に乗ってくださった弁護士さんはとても穏やかな方で、無料であるにもかかわらず、とても真摯に対応していただけました。
改めて自分の置かれた状況を説明し、Amazonとのやり取りの資料を見せ、商品と意匠権の内容を示し、率直な意見を仰ぎました。
その結果として弁護士さんから得られたのは、以下のような見解でした。
- 意匠登録に記載されている弁理士と、トップの商品に関わっている弁理士が同じ。権利者(通報者)は恐らくこのセラー。
- Amazonでの発売日が、意匠登録出願日より前なので、既に公知のものを出願したことになり、この意匠登録は無効にできる可能性はある。
- 相手のやり方はひどい。
私に与えられた選択肢は、上記の問題点を突くかたちで相手と戦うか否か、でした。
しかしそこで問題になったのは、費用です。
弁護士さんから例示された報酬額は、当たり前ですがそれなりに高額で、しかも必ずしも短期で決着がつくわけではなく、さらに加算されていく可能性もありました。
このとき、私の手元に残っていた資金は50万円ほど。
相変わらず固定費は無慈悲に出ていくわけで、この中から弁護士さんに高額な額を支払うのは、どんなに戦う気があっても無謀を言わざるを得ませんでした。
……ここまで考えたところで、第二の商品については自分の中で結論が出ました。
撤退。
非常に残念ですが、それしかありません。
そしてこの場合、考えなければならないのは第二の商品のことだけではありません。
中国輸入ビジネスそのものから撤退するか否かも、決断しなければならない状況でした。
どんなに良い商品をリサーチで見つけたとしても、現状では仕入れができません。
どこかから、さらに資金を調達しなければならないわけですが、そのアテがもう私にはまったくありませんでした。
とりあえず、弁護士さんには「この商品については諦めます」とだけ告げて、事務所を後にしました。
無料相談は30分間と定められていたのですが、3分ほどオーバー。
厳密に言えば、そのぶん追加料金をとられるところだったのですが、そこはオマケしてもらえたので、まったくの無料で相談を終えることができました。
その温情が身にしみたのを、今でもよく覚えています。(つづく)
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