天国的底辺

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灰刃ねむみ『足芸少女こむらさん』1巻:直球にして変化球な裸足漫画!

 本日発売された、灰刃ねむみさんの漫画『足芸少女こむらさん』第1巻の感想を書いていきたいと思います。

 作品の持つ特殊な性質に対して、己の特殊な嗜好をガンガンぶつけていくので、そういうものだと思ってお読みいただければ幸いです。

(以下、引用した画像はすべて秋田書店刊『足芸少女こむらさん』第1巻・電子書籍版からのものです。出典としてページ数を記載しています)

 

 

 

簡単な作品紹介

 主人公・月長くんのクラスに、季節外れの転校生がやって来ます。

 名前は小叢井こむら。

 可愛らしい女の子なのですが、彼女には一つ、普通の人とは大きく違う特徴がありました。

 本人曰く「雑技団育ち」で、昔から家が代々「足芸」をやっている。その関係で、日常の様々なことを裸足でこなす習慣を持っているのです。

 黒板に文字を書くのも裸足。席が隣同士になった月長くんとの最初の挨拶は、握手ではなく「握足」。ノートをとるのも、掃除をするのも、全部裸足。

 そんな女の子。

 

 戸惑いながらも接する月長くんですが、ひょんなことからトラブルに巻き込まれ、アクシデントでこむらさんの足にキスをしてしまいます。

 それが元で、こむらさんに特別な相手と認識されてしまい、二人のちょっと風変わりなラブコメがスタートすることになります。

 

裸足要素:一般人にはギャグに、その趣味の人にはお楽しみになる設計

 全編を貫いているのは、こむらさんが裸足でこなす様々なアクションの魅力です。

 私はまず、その描写の絶妙なバランス感覚に感心しました。

 私は無類の裸足好きなので、最初のページから最終ページまでそういう目で見てしまいましたし、そういう特殊嗜好を満たしてくれる作品として脳内処理をしてしまうわけですが、もちろん読者が皆そういうわけではない――というより、週刊少年チャンピオンを手にとった人間の大多数には、そのような趣味はないでしょう。

 

 ではそれらの読者を完全に置き捨てているかというと、そういうわけでもないのです。

 裸足に対して特別な想い抱かない読者には、「裸足で何でもやるこむらさん」というのがギャグとして機能するように作られている。

 この「その趣味の人を満たすこと」と「そうでない人にギャグとして見せること」の両方をこなすと宣言したのが、第1話の最初のページでしょう。

 

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出典:P5

 

 裸足が好きな人なら、もうこれで何が約束されているのか、ピンと来ます。

 一方でそうでない人には、このページはおもしろアクシデントに映ることでしょう。

 また、その後、月長くんがこむらさんと「握足」するシーンでは、このような描写が用意されています。

 

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出典:P19

 

 ここでは「裸足も体の一部」という描き方をすることで、「普通の」読者に対しては、いったん裸足描写に普通の身体性を与えることを試みています。

 見た目は特殊だけど本質はそうでもないよ、これはあくまで可愛い女の子とのふれ合いの話だよ、という説得ですね。

 しかしそっちの趣味の人には、ここの描写を読めばすぐに次のことがわかるのです。

「ああ……作者の方、完全に同士だ……」

 よくできているなあ、と一人うなずいてしまいましたね。

 

特殊嗜好を描くためのキャラ造形は何通りもある

 私自身、趣味で小説を書いて新人賞に応募しており、以前自分の裸足に対する愛着をこれでもかと詰め込んだ作品を書いたこともあるのでわかるのですが、特殊嗜好を作品で扱うためのキャラ造形には様々なパターンがあり、そこで結構悩みます。

 主人公をそういう趣味の人間にして、ヒロインの裸足に惚れ込ませるパターン。

 またその場合、ヒロインにそういう趣味への理解があるかないかでも分かれます。

 それから、ヒロインの裸足によって主人公がそういう嗜好に目覚めさせられるパターン。

 さらには、ヒロイン自身に一種の「見せたがり」趣味を付与し、裸足になっていることに興奮している様子を克明に描く手もあります。

 

 そこについて、本作が選んだのはとても「健全な」ものでした。

 まず、主人公の月長くんはいたって普通の感覚の男の子。ただ、女の子としてのこむらさんのことは可愛いと思っており、「あくまでもその体の一部として」裸足への接触にときめくこともある。

 そしてヒロインのこむらさんは、裸足を積極的に披露していく女の子ですが、それは一家に代々伝わる芸事であり、そこにやましい要素などひとかけらも抱いていません。

 この関係が徹底されます。

 

 つまり本作は、その「作品内」においては、フェティシズムの概念がまったく存在しないのです。

 そういうものを読者が感じ取ったとしたら、それはあくまでも読者の頭の中にそういうアンテナが伸びていて、勝手に感じ取っているだけ。

 キャラ達にはそういう素養はなく、ただそこに足芸という特別な芸事があるから様々な特殊イベントが発生するだけであるわけです。

 健全でしょう? 健全なんです!

 

ギャグで押し通す

 その健全性と、特殊な嗜好を満たすことを両立させる手段として、本作ではこむらさんに関する多くのことを、ギャグで押し通しています。

 

 たとえば、そもそも足芸を極めるということ自体、いったいどこのどんな環境でそういうことになったのかは、まったく説明されません。

「とにかく」雑技団育ちで、「とにかく」そういう一家に生まれた身として、世界に通用する足芸を身につけようとしている。らしい。

 おいおいちょっと待ってくれ、と思いつつも、こむらさんの真っ直ぐな瞳でそう説明されたら、それ以上深掘りを要求しようがないじゃないですか。

 

 また、こむらさんが月長くんを意識し、二人の物語が進行していく理由付けとして、小叢井家の代々のしきたりが語られます。

「足に接吻したら結婚しなければならない」

 そんなばかな、と笑うところなのは言うまでもありません。

 そしてそのあまりの強引さに、思わず「そういうものとして通してあげよう」という気持ちになる。

 その隙を突いて、本作はまんまと、わずか数コマで「この物語において二人が親密になっていく動機」を作ってしまったわけです。

 

 他にも、足芸を封印されて手での作業を強要されると体調がおかしくなるとか、こむらさんにいろいろと極端な属性が与えられています。

 それらはどれも、二人の関係を、その趣味の読者に刺さるかたちで後押しするべく機能している。あくまでも健全の範囲内で。

 柱となる要素をギャグとして通してしまうと、あとのことは本当に便利になります。もう大抵のことは「とにかくこむらさんはそういう人なんだ」で済んでしまう。

 そこへ持っていくことに見事成功した手腕には、拍手を送りたいですね。

 

想像以上に嗜好に合っていた

 これは裸足が好きな方なら嫌というほど理解していることだと思うのですが、この道の嗜好は鬼のように細分化されています。

 たとえば、裸足が見られれば何でも同じと考える人もいれば、裸足以外きっちり服を着ていればいるほど興奮するという人もいる。

 いつも裸足でいてくれたほうがいいという人もいれば、いざというときだけ裸足になってくれたほうがレア度があって良いという人もいる。

 いつでもどこでも裸足で歩いて、足裏が汚れているほうがいいという人もいれば、あくまでも綺麗な裸足が好きという人もいる。

 

 裸足が好きな方々なら、一度はネットで同好の士がやり取りするところを目にしたことがあるかと思いますが、これらは本当に多種多様です。

 そして、どれが正解ということはないので、議論で決着がつくようなものでもありません。

 ただただ多様性を認めるしかないところなのです。

 

 さて、それを踏まえて話すのですが、私は当初、本作のこむらさんは、裸足好きとしては大歓迎するものの、上記のような細分化された意味では、あまり自分の趣味に合わないのではないかと思っていました。

 私の嗜好は、「着込んでいるほど裸足が映える」「裸足に羞恥心を感じる子が理想」「汚れた足裏はあんまり……」というものなのですが、前情報から想像するこむらさんは、およそ羞恥心とは無縁そうだし、てっきりあらゆる場所を裸足で移動する子だと思っていたのです。

 

 でも蓋を開けてみると、その生態は想像よりずっと私向けでした。

 

 第一に、こむらさんはどこでも裸足で歩くというわけではなく、登校時にはローファーを履いているし、校舎内では上履きを履いているのです。

 ただ靴下を履いていないだけで、直に足裏を汚すような生活スタイルではない。

 これは意外に思うと同時に、ガッツポーズの出るところでした。

 汚れた裸足が好きな人は逆にがっかりしたところだと思うのですが、私にとっては綺麗な足を保ってくれることは、興奮の度を高めてくれる要素だったからです。

 

 またその際に、ローファーのかかとを潰して歩いているのも、嗜好にどストライクでありがたかった。

 かつてリアルでも、女子高生のあいだで靴下を履かずに登校するのが地方を中心に流行った時期があり、彼女らはローファーのかかとを潰して歩いていたのですが、その黄金時代を彷彿とさせるこむらさんのかかと潰しは、素直にめちゃくちゃ嬉しかったです。

 

 そして第二に、基本的に足芸するにあたって羞恥心の類は持たないこむらさんですが、月長くんに対しては特別な想いを抱いていて、彼に足を触られることにはとても純情な反応を示す、という展開が用意されていたのです。

 

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出典:P50-51

 

 これは作品内の位置づけとしては「ラブコメ要素のために必要な設定」なわけですが、嗜好の面から言うと、ほとんど私のためにオーダーメイドで用意してくれたもののようで、何ともたまらないものがありました。

 通常は羞恥心がないから、思いっきり裸足で様々なアクションを行ってみせる。

 でも月長くんに対してだけは羞恥心を感じるから、そういう描写も楽しめる。

 こんな素晴らしい両立が他にありましょうか。

 ありがとうございます、という他ない作りでありました。

 

各論:ストーリー

 さて、ここからは漫画としての作りを各要素ごとに簡単に評価(というほど偉いものではありませんが)していきたいと思います。

 

 まずストーリーですが、足芸という特殊な要素を除けば、基本的には正統派なラブコメです。

 ちょっと変わった女の子と接近する特別な理由が生まれて、それ以来何となく二人の距離が近づいていく。

 ただギャグの要素を強めに持っているので、重いやり取りは(今のところ)まったくと言っていいほどありません。ここをどう捉えるかは読者次第ですが、今の私にはこの軽さがとてもしっくり来ます。

 また1話完結で、ページ数も少な目なので、その意味でも良い意味でライトなお話になっていますね。

 

 そして足芸という性質上、アクション物としての要素も強く持っています。

 たぶんラブコメの中で、ここまでいろいろなアクションを見せてくれるヒロインはなかなかいないのではないでしょうか。

 そのためにとても作品内の空間が立体的に感じられ、臨場感があります。

 さらに言うと、この動きの激しさは、アニメに非常に向いているのではないかとも感じられるところで――気が早いとは思うのですが、そういう展開にもつい期待してしまいますね。

 

 今後連載が長く続いていくにつれて、第1巻の時点ではなかったものがいろいろ出てくるのではないかと思います。

 その中にはもしかしたら、ちょっとシリアスな要素なんかもあったりするかもしれない。

 こむらさんの家はしきたりが結構厳しそうで、料理の仕方によってはそこを重く描くことも可能であるように見受けられるのです。

 個人的な希望としては、何を起こそうとも、基調にはライトな要素を持ち続けて欲しいところではありますね。

 

 基本的には「健全に特殊嗜好を突く」本作ですが、サービス精神を強めに感じたシーンがないわけでもありません。

 私のアンテナがいちばん反応したのは、12話のここですね。

 

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出典:P148

 

 風紀委員の女子・桐津タイギに、珍しくこむらさんの足が攻められているシーンです。

 どちらかと言えばあっさり味で描かれるこむらさんの裸足なのですが、ここだけは例外的にかなりねっとりしていましたね。

 ここだけの話、読みながらめちゃくちゃ興奮してしまいました。ここだけ明らかに少年漫画的ではない。

 個人的な願望としては、今後もこんな感じの描写がたまに入ってくれると、歓喜するところでありますね。

 

各論:絵

 続いて絵についてです。

 私は画力の高低というものを語るだけの素養は持っていないのですが、本作の絵柄は濃すぎず薄すぎず、作品内容に対してとても適切なものになっているのではないかというのが、率直な感想です。

 恥ずかしながら私は週刊少年チャンピオンを読んでいないので、あの雑誌における本作の絵柄の立ち位置というものがわかっていないのですが、悪目立ちのしないすっきりした感じに私は好感を持てました。

 

 ちなみに、読んでいてつくづく思ったのは、こむらさんを描くのは大変だろうなあということでしたね。

 というのも、こむらさんの足芸はめちゃくちゃアクロバットで、漫画の都合上、ありとあらゆる角度から、ありとあらゆるポーズのこむらさんを描かなければならないのです。

 それをきっちりやり遂げていることには、拍手を送りたいところです。

 ストーリーのところでも書きましたが、この辺がただのラブコメではなくアクションが混ざっていることでいちばん苦労するところでしょう。

 しかし結果として生まれたものには、苦労しただけの価値が宿っていることを、いち読者として保証したいと思います。

 

各論:キャラ

 キャラの数はかなり少な目です。

 この第1巻では、名前つきで掘り下げられたキャラは月長くんとこむらさんの他には、最後の12話で登場した桐津さんくらいしかいません。

 あとは名前のないモブキャラばかりです。

 それでも特に寂しくなかったのは、こむらさんの縦横無尽の活躍があったからですね。

 裸足を抜きにしても、彼女はとても可愛らしく描かれています。満面の笑顔の破壊力もまた、本作の注目すべき要素!

 新キャラが早めに出なかったのは、恐らく最初からある程度の人気が出て、テコ入れの必要がなかったからでしょう。

 

 いずれにせよ、メイン級のキャラがまだほとんどいないということは、本作にはまだまだいくらでも膨らませる余地があるということになります。

 今後、登場させる新キャラ次第でどのような方向にも伸ばしていくことができるポテンシャルがある。

 あまりキャラを出しすぎるのも作品のバランスを崩すことになるとは思うのですが、賑やかになるのは基本的には楽しいことで、今後の適切な拡大に期待したいところですね。

 

気になったところを1つだけ

 最後に気になったところを1つだけ。

 1話に不良の先輩キャラが出てきて、こむらさんの足芸を笑い飛ばしていたのですが、あそこはちょっと浮いていたのではないかと思いましたね。

 というのも、あのシーンを除いてはこの作品世界の登場人物は皆、こむらさんの足芸を受け入れていて、「おかしなもの」という観点は存在しないのです。

 足芸的に「優しい世界」なんですね。

 なので本当に1話のあのシーンだけ、足芸がコケにされていたわけです。

 お話の展開上必要だったのでしょうし、不良キャラの振る舞いなので作品的にも否定されているのですが、あれは個人的に要らなかったなと。

 

 まあ、気になったのはこの点くらいでしょうか。

 

おわりに

 そろそろ締めましょう。

 まず、裸足好きの人には絶対におすすめの作品です。

 先述したように裸足好きの嗜好は非常に細分化されており、中には本作の方向性は自分の嗜好と合致しない、という方もいるのではないかと思います。

 しかし、ここまで裸足というものにフォーカスした(そしてそうでありながら「普通の作品でもある」ことを指向した)作品を、私は他に知りません。

 それがどんなものかを確かめるためだけにでも、私は本作を手に取る価値は十分にあるのではないかと思っています。

 

 そして、特に裸足に興味を持っていないという方。

 ここまで長々と特殊嗜好に因んだ話を展開しておいてこう言うのもなんですが、本作は「軽く読めるギャグラブコメ」としても十分におすすめできる内容になっています。

 特に、心情の描写よりも動きのある描写が欲しいという方には、本作でこむらさんが見せるアクションの数々は、気持ちよくハマるのではないでしょうか。

 いったん偏見を捨てて、ぜひお手にとってみるべきだと、私は推奨いたします。

 

『足芸少女こむらさん』、皆におすすめできる作品です。

 しっかり売れて、ぜひその末にアニメ化を!

 ――そう願わずにはいられないlokiがお送りいたしました。

 

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