紺野あずれさんの漫画『こえでおしごと!!』の第1巻を買って読みましたので、簡単に感想を書いていきたいと思います。
この作品には前作があります。2008年から2013年まで連載されていた『こえでおしごと!』全10巻ですね(タイトルの違いはビックリマークの数だけなので、この点に注意しましょう)。
本作『こえでおしごと!!』は、その前作から数年後の物語であり、その流れを踏まえて進むのですが、でも本作から入った人でもじゅうぶん楽しめるようになっています。
なので、この記事でも、ことさらに前作について説明することはしません。
ですが、前作を踏まえているからこそ面白い部分については、普通に前作にも言及をしています。
それらが気になるという前作未読の方は、この記事でもし興味を惹かれた場合、ぜひ前作から読んでみていただきたいとは思っています。
……という前置きを経たうえで、ここから本題。
エッチな台詞で恥じらう魅力は健在
本作の主人公は、高校一年生で生徒会書紀を務める女子、常盤木夏恋。
生徒会長である名小路結愛に憧れており、日々充実した学生生活を送っています。
しかしあるとき、結愛の「裏の顔」を知ってしまいます。結愛はエロゲーが好きで、自分でもエロゲーを作っているという剛の者だったのです。
自分の秘密を知られてしまった結愛はパニックに陥りますが、落ち着きを取り戻した後、夏恋にこんなお願いをしてきます。
「常盤木さんにエロゲーの声優をやって欲しいの!」
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
……この辺り、前作とは細部は違えど、「エロゲーのえの字も知らない状態で突然エロゲー声優をやれと言われる」点では同じです。
よく言えば安定感、悪く言えばまたかという感じではありますね。
相変わらず恥じらいの描写が秀逸
そんな風にしてエロゲー声優の世界に少しずつ足を突っ込むことになる――という展開なわけですが、前作のファンが期待するものは、本作においても健在です。
それはすなわち、恥じらいながらエッチな台詞を言うピュアな女子高生、というシチュエーション。
これこそが『こえでおしごと』シリーズの醍醐味なのは、前作のファンであれば誰もが賛同するところでしょう。
良くも悪くも、本作の肝はここにあります。夏恋が恥ずかしい顔をしながらエッチな台詞を言う。この一点に何の魅力も感じないのであれば、残念ながら本作からは距離を置いたほうがいいでしょう。
しかし、そこに萌えや興奮を覚えるという人にとっては、本作も安心のクオリティです。
夏恋の「こんな恥ずかしいこと、やりたくない」気持ちと、「でも会長の期待に応えたい」という気持ちの狭間で葛藤する描写は、何ともたまらないものが自分的にはありました。
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
会長が変態女子だから作れる距離感とスピード感
前作では、エロゲー声優の話を持ちかけてきたのは、エロゲーメーカーを経営している主人公の姉でした。
そして本作では、憧れの生徒会長。
この違いは、ちょっとしたテイストの違いとして、上手く機能しているように見えます。
あとがきで紺野さんも書いておられるのですが、生徒会長を「普段は生徒で可憐だけどその実態は変態女子」という設定にしたのは良かったですね。
これが男子ならちょっと危ない絵面ですし、女子だとしても見るからにオタク女子だったら、それもちょっとヒネリが足りない。
お嬢様然としたキャラに、エロゲー好きという裏の顔をつけたことで、夏恋の戸惑いも独特のものになったように思います。
また、ある種の変態ゆえにグイグイ迫ってくる結愛の性格が、夏恋との良い感じの距離感を作っており、その点も気に入りました。
スキンシップ、とまではいかないのですが、結愛の夏恋に対するアプローチは本当に積極的で、夏恋にとっては戸惑うと同時に、望んでいた接近でもあるわけです。
百合好きな人は、この辺りに尊いものを感じることができるのではないでしょうか。
声だけでイかせる設定の正統的延長
この『こえでおしごと』シリーズには、ある特殊な(超自然的な)能力が設定として登場します。
それは「喘ぎ声を聴いた人をイかせてしまう」という、エロゲー声優の究極の到達点とも言うべき能力です。
前作後半の肝だった能力
前作の主人公である青柳柑奈は、エロゲー声優としての道を進んでいく過程で、前述の能力に目覚めました。
これはまあ、お話の都合で生まれたものだったのだろうと思います。
あくまで私の想像ですが、連載を続けていくにあたって、柑奈に何か特別な成長というか覚醒みたいなものをさせないと保たないという事情がまずあり、そこから作られた展開だったのではないかなと。
そのようにして生まれた設定は、エロゲー声優としては最高に素晴らしい能力でした。
あまりにも素晴らしすぎて、「それ以上」がなくなってしまうものでした。
声優としてのスキルが未熟な柑奈を、唯一無二の存在にする能力。どう考えても、これよりもっと凄いものって、用意できませんよね。
そんな「究極の姿」をすでに前作で見せてしまっている中で、本作が何をやるのか、というのは気になるところでした。
もう一度、何の力も持たない素人の成長物語をやったら、前作ファン的には退屈なものになってしまうからです。
その点、本作では主人公の夏恋に、いきなり前述の能力を持たせるという荒業で攻めてきました。
生徒会長の結愛も、そこに目をつけて夏恋をエロゲー声優の道に誘おうとした、という流れを作り、それを自然なものにするという寸法です。
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
ここはとても上手く行っていると感じましたね。
前作ファンは前作の続きのように読むことができますし、本作から入った人も、なるほどこういう話なのかという風に、予備知識なしで入り込むことができるようになっているのです。
古参と新規の両方に配慮した、巧妙な戦略を感じ取れたのは良かったです。
魔法の超設定「処女しか能力を使えない」
しかもそこに、本作では新たな設定をかぶせてきました。
「この能力は処女にしか使えない」というものです。
これを最初に目にしたときは、「ここまでやるか」とちょっと笑ってしまいました。
この能力が超自然的要素である点について完全に開き直り、それならいっそ、という感じで突き詰めてみたのでしょう。
しかしこれが、単なる思いつき以上の効果を持っているんですよね。
前作の主人公である柑奈を伝説化すると同時に、前作の重要脇役であった文花に新しいキャラ付けをすることに成功しているからです。
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
そしてそのことを、同じ能力を持った夏恋がエロゲー声優として活躍すべきである理由付けとして使っている。
非常によくできていると思いましたね。笑って萌えて、最後に納得までしてしまうという。上手いです。
前作キャラ再登場の魅力
前作ファンとしては、前作のキャラのその後が登場した点は、純粋に面白く読める要素です。
文花の絶妙なポジションと設定
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
まず前述した藁園文花ですが、今回も主人公を導く先輩というポジションを引き続き務めることになったようです。
しかし、「喘ぎ声で人をイかせる能力」を捨てたがっており、この点で「後継者探しをする者」という新たな側面が加わりました。
また、「29歳処女」というのはなかなかマニアックな設定で、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる要素なのではないでしょうか。
私は個人的に、前作のキャラの中で文花がいちばん好きだったので、本作でも重要なキャラとして登場してくれたことは素直に嬉しかったですね。
このシリーズでは何人ものキャラが喘ぎ声を披露してくれますが、文花が喘いでいる姿がいちばん好みなんですよ。それが今回も見られるとなると、これは美味しいなと。
今後もどんどん魅せていただきたいところです。
柑奈の不在という図の魅力
他にも、柑奈の友人達やエンジニアといった面々が前作から続いて登場しており、読んでいて何とも感慨深くなりました。
その後も元気にやっていたんだな、みたいなことを考えると、胸がジーンとしてしまうタイプなんですよね、私は。
その意味では、見事に作品の戦略に嵌まっているという感じです。
そしてそんな中にあって、前作の主人公である柑奈が(第1巻時点では)登場しないというのも、魅力的な図に感じられました。
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
柑奈は前作終了後にどうやらエロゲー声優の道を進んだようで、そこで能力によってトップに君臨したようです。
しかし処女を失ったことで能力を喪失し、そのまま結婚し家庭に入ることを選んだ様子。
この辺りの「ある意味での普通さ」が柑奈らしくもあり、納得できるものがありました。
ついでに言えば、そのおかげで先輩の文花が業界をリードするかたちになっているのも、文花ファン的には美味しい展開だったりしますね。
本人は能力を捨てたがっているようですが……。
絵柄も正統進化
本作では、絵柄も相当に進化しています。
前作の絵が「下手」だった――とまでは言わないのですが、もっと上手くなるポテンシャルが多分にあるものだったんですよね。
それが数年の時を経て、より洗練されたかたちで帰ってきたという感じです。
若干、キャラの顔立ちから幼さのようなものが減っており、そこが合わないという人もいるかもしれませんが、私は全然OKに感じられました。
何より、このシリーズでいちばん重要である「恥じらいの表情」について、さらに磨きがかかっているのは大きな武器なのではないでしょうか。
引用元:紺野あずれ『こえでおしごと!!』第1巻
そして、一コマだけ、それも劇中ゲームの表現とはいえ、前作では最後まで描かれることのなかった乳首が描かれていたのが「ほう」という感じでしたね。
もしかしたら本作では、今後そっちの方向でも積極的に過激化させていくつもりなのかもしれません。
楽しみにしておきましょう。
今作の目指すゴールはどこか?
さて、本作の物語は、これからどこへ向かっていくのでしょうか。
というか、どこへ向かうべきなのでしょうか。
前述したように、エロゲー声優としての「究極のかたち」はすでに示されています。
そして夏恋はすでにその力を有しており、その意味ではいきなり頂点からスタートしている物語であると言えるのです。
ならば、エロゲー声優としての成長物語、にするのはあまり良い選択肢ではないようにも感じます。
それなら、本作は何を推進力にしていけばいいのでしょうか。
焼き直しにはリスクがある
例えば、前作のようにラブコメ要素を入れていくのか?
しかしそれだとちょっと、というかだいぶ焼き直し感がありますよね。
焼き直しは前作ファン的にはちょっと看過できないところでしょう。一度そう感じてしまうと、見切りも早いのではないかと想像します。
しかも、結愛とのちょっと百合っぽくもある関係性をメインにするところから始めたのに、男子キャラとラブコメさせたらそれが崩れてしまう危険性もあります。
その意味でも、ラブコメ要素は入れにくいところだと思いますね。
新規の読者から見て自然なかたちで、前作が通らなかった道を通る必要があるということになります。
今後を予想してみる
ではどういう展開になるのか?
まず考えられるのは、エロゲの内容を多様化させるとか、業界話を前作以上に深く展開させていく、といったところでしょうか。
私個人はかなりのレズスキーなので、レズ物のエロゲに文花と共演させて、お互いに行為するところを思い浮かべながらエッチシーンを演じる夏恋と文花を見てみたい気持ちが強いです。
あるいはちょっとリアルな話として、エロゲが衰退している現状についての話を繰り広げるのもありでしょうか?
……いや、これはちょっと辛気臭くなってしまうかな。
うーん、ちょっと発想がまとまりませんね。
第1巻のラストで、初めて学校で名前のある男子キャラが出てきたのですが、このキャラがどう物語を盛り上げてくれるのか、今から楽しみではあります。
まとめ
という辺りで締めたいと思いますが、まとめとしては以下の2つです。
- 前作が好きだった人は当然の如く買い
- 美少女がエッチな台詞を言って恥じらう姿に興奮できる人も買い
本作でも新鮮な刺激を期待したいところです。
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