天国的底辺

二次元、創作、裸足、その他諸々についての思索で構成されたブログ

音と香りは夕暮れの大気に漂う

人間関係

 仕事でもプライベートでも、ある一人の他人とうまくやっていけるかどうかについては、いろいろな評価基準が存在すると思います。

 趣味嗜好が合うか合わないか。同じビジョンを共有できるか否か。会話のフィーリングが噛み合うか否か。などなど。

 

 私の観測の範囲内では、一般的に「その人とうまくやっていけるかどうか」のほとんどは、上記のような観点で語られています。

 これらには一つ共通点があります。

 それは、「その人を相手にアクションをとったときの手応え」に話が限定されているということです。

 

消極的関係の大切さ

 しかし個人的に私は、そうではない時間にも重きを置いています。

 つまり、「同じ空間にいるけれどもお互いに何の用事もないときに、お互いをどれほど邪魔に感じずに済むか」と言う観点です。

 

 こういうことを考えるのは、私の育ち方に原因があるかもしれません。

 身内の人数が多い環境で長い時間を過ごしてきて、特に共同作業する予定もない相手と同じ空間を共有するという経験がとても多かったのです。

 必然的に、快適な時間を過ごす秘訣として「いかにお互いがお互いを邪魔せずに自分の作業に打ち込めるよう気をつけるか」というのが磨かれていきました。

 その到達点は、一つの部屋に複数の人間がいるにもかかわらず、それぞれが「まるで自分一人で部屋を使っているように感じながら」活動できることです。

 

 このような考え方で人間を判断すると、次のような価値観が生まれます。

「人間は外部の状況を五感で判断する。その五感に干渉しない技術を持っている人間は、基本的に邪魔にならない。しかし世の中には、ほとんど無意識的に他人の五感に関わってくる人間がいて、この人達は本当に鬱陶しくてたまらない」

 

入ってくる情報を分解して考えてみる

 五感とはもちろん、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚のことです。

 そしてこれらには、とても大事なポイントがあります。

 それは、情報を特に求めていないときに、それを容易にスルーすることができるか否かで、二つの系統に分けられるということです。

 

 例えば、五感の中で一般的に最も大きな意味を持つ視覚について考えてみましょう。

 

 私の記憶によれば、人間が視覚から得る情報は、五感すべてから得る情報の7割を占めていると言われています。

 人は見た目が9割、という本が確かあったと思いますが、人間がその外見で他人に与える印象はとても重要なものです。

 

 しかし今議論している「他人の邪魔にならないか否か」と言う観点で見ると、視覚はそれほど大きな意味を持っていません。

 なぜなら、その人から目をそらすだけで、その情報は簡単にシャットアウトすることができてしまうからです。

 

 同じことは、触覚にも当てはまります。

 満員電車などでは避けることができませんが、一般的な状況においては、物理的に距離を10センチでも取るだけで、触覚情報はやはり簡単にシャットアウトすることができてしまいます。

 

 味覚についてはあまり言及する必要がないでしょう。

 人間を味覚で判断する機会はほとんどないと言えるからです。

 

 問題は残った二つ――聴覚と嗅覚です。

 

ある意味、厄介な感覚器

 皆さんは「うるさい人」に悩まされたことがあるでしょうか。

 一口に「うるさい人」と言っても、いろいろな種類がいます。

 愚にもつかないことでいちいち話しかけてくる人、独り言の多い人、やたら大きな物音を立てる人、などなど。

 それらは皆、それぞれ別の人間性を表しているのでしょうが、共通しているのは次の事実です。

「ノイズキャンセリングのヘッドホンでもしない限り、同じ空間にいられると基本的に回避することができない

 

 このことは嗅覚にも当てはまります。

 まあぶっちゃけて言えば「臭い人」ですね。体臭に限らず、香水がきつすぎるとかも。

 こういう人が側にいると、その嗅覚情報から逃れるのはとても難しい仕事になります。

 鼻呼吸を完全に封印でもしない限り、ニオイというものはこちらの意図にかかわらず遠慮会釈なく向こうから忍び寄ってくる。

 なかなか厄介な代物と言えるでしょう。

 

まずはそこから

 以上の考え方から、私がその人とうまくやっていけるかを判断するときには、次のようなことをとても大切な要素として考慮に入れています。

 

「音と香りを発生させない人か否か」

 

 これらを制御することができず絶え間なく発生させる人とは、性格が合うとか合わないとか、能力的に十分だとか不十分だとか、そういった問題以前のこととして、同じ空間を快く共有することができません。

 逆に言えば、何でもない時間にまったく音を立てず、何のニオイも発することのない人間でさえあれば、最低限の共存は可能であるというのが、私の考え方です。

 

 私に関わるすべての人間たちに私が要求したいのは、何でもないときに私の聴覚と嗅覚を刺激しないで欲しいということです。

 人間関係、まずはそこから。

 残りのことは、その土台の上でうまく調整していきましょう、と。

 

 あまりこういう観点を他で目にしたことがないので、ブログの記事にさせていただきました。

 

名盤

 ちなみに今回の記事のタイトル「音と香りは夕暮れの大気に漂う」は、ドビュッシーの前奏曲集第1巻に収録されているピアノ曲のタイトルです。

 ドビュッシーの前奏曲集は傑作なので、ぜひ皆さん聴いていただければと思います。

 おすすめはマウリツィオ・ポリーニが演奏したものです。

 

ドビュッシー:前奏曲集第1巻、喜びの島

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ドビュッシー:前奏曲集第2巻、白と黒で

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