皆さんは考えを深めたいときや、良いアイディアを出したいとき、どのような方法を用いているでしょうか。
まったく何も方法論を模索したことがない、という人は少ないでしょう。ほとんど人が、多かれ少なかれ悩んだ経験のあるところなのではないかと想像します。
この記事で紹介するのは、未だに「これ!」という方法に出会っていない人にぜひオススメしたい、より良く思考するためのトレーニングです。
その名も、ゼロ秒思考。最近話題になっているので、この言葉をキーワードにしてこの記事に辿り着いたという人も多いかも知れませんね。
この記事を最後まで読むことで、このゼロ秒思考の基本と、その応用方法について理解することができることでしょう。
あなたの思考力を鍛える一助となれれば幸いです。
ゼロ秒思考とは
さて、ゼロ秒思考とは一体どのようなものなのでしょうか。
この項では、まずその基本的なところを具体的に解説していきます。
基礎知識
ゼロ秒思考とは、かつてマッキンゼーに勤めていた赤羽雄二さんという方が提唱している、思考についての独自の考え方、そしてそのトレーニング方法のことです。
同名の著書が2013年に発行されており、2021年現在に至るまで、なかなかのロングセラーになっています。
むしろ、ここ最近になって、にわかに脚光を浴びるようになった感もありますね。私もそうやって最近出会いました。
ゼロ秒思考の基本となる考え方は、次のようなものです。
「時間をかけて考えたからといって、必ずしも良いアイディアが浮かんでくるわけではないし、考えが深まるわけでもない」
人間の思考というものは、本来素晴らしい瞬発力のあるものです。
その場その場の問題に対して、何が適切な解であるのか、瞬時に判断する能力を誰もが備えているのです。
その力を引き出し、自在に扱うことができるようにしよう、というのがゼロ秒思考であり、そのためのメソッドが、ゼロ秒思考トレーニングなのです。
具体的に何をするかというと、まずテーマを決めて、それについて思いついたことをどんどん書き出していきます。
制限時間は1分。その1分の間に、20~30文字の文章を4~6つほど書くことが目標です。
ただこれだけです。実にシンプルですよね。
この行為を繰り返すだけで、あなたの思考力は格段に研ぎ澄まされていき、これまでまとまらなかった思考がまとまるようになったり、自分を客観的に見ることができるようになったりするのだ――というのが、赤羽さんの主張です。
シンプルなのに効果抜群。それこそゼロ秒思考トレーニングが愛されている最大の理由です。
主な効果
ゼロ秒思考トレーニングを繰り返すことによって、以下の3つの効果が期待できるとされています。
- 頭の中が整理される
- 客観的に自分を見つめることで感情が安定する
- 自分の中にある思いもよらなかったアイディアを拾うことができる
まず第一に、自分の頭だけで考えているうちはあやふやだった思考が、書き出すことによってしっかりとした形になる、という効果があります。
これにより、自分が何を考えているのか、どのような価値観を持っているのかといったことが整理され、より深く考えていくための土台を作ることができるようになるわけです。
第二に、一切の制約なしに書き殴ることで、自分のモヤモヤした感情が整理されていくのを感じることができる効果があります。
人間は様々なことで思い悩むものですが、その実態については自分でもよくわからないことが多かったりしますよね。
そんなとき、言葉にして書き出してみることで、形を伴わなかった感情がくっきりし、それと同時に発散の効果も現れ、感情の安定に繋がっていくわけです。
そして第三に、思いもよらなかったアイディアが自分の中から出てくることを期待できる、という効果があります。
人間は本来、誰しもアイディアをたくさん生み出すことのできる存在であり、それを他人にもわかる形でアウトプットできる資質を秘めています。
しかし、それを磨き上げる方法をわかっていないがゆえに、ひたすら考え込んだまま何も生み出せない時間を過ごしてしまうことになりがちなのです。
ところが、思いついたことをどんどん書き出していくことで、自分の書いた内容に触発される現象が起き、発想に発想が重なっていくようになります。
その結果として、それまで自分が思いもよらなかった領域にまで発想が伸びていき、「本当にこれが自分の中から出てきたのか」と驚くようなアイディアに繋がり得るのです。
いったんこの効果を味わうことができたら、ゼロ秒思考トレーニングにハマってしまうこと間違いなしでしょう。
推奨されているやり方
ゼロ秒思考トレーニングには、推奨されているやり方があります。
まず、手書きで紙に書き出すこと。
そしてその紙は、A4サイズが良いとされています。著者がいろいろ試してみたところ、そのサイズの紙に書いていくのが一番やりやすい、という結論に至ったのだそう。
もちろん、綺麗な字で書く必要などはありません。文章としてきちんと成立している必要さえありません。
大事なのは、あなたがそのとき思ったことを忠実に書き出すことであり、その結果としてどれだけ殴り書きになろうが、どれだけ口汚くなろうが、その辺りを口にする気にする必要はありません。
どうせ、他の誰にも見せないのですから。
そして、3ヶ月に1回くらいのペースで、書き溜めたものを読み返すことが推奨されています。
ゼロ秒思考トレーニングの本質はあくまでもアウトプットなので、そこまで頻繁に読み返す必要はない、というのが著者の主張です。
けれどもまったく読み返さないのももったいないので、一定の時期になったらパラパラと読み返し、「なるほど自分はこのようなことを考えて過去に考えていたのか」と懐かしんでみよう、ということですね。
私なりのゼロ秒思考トレーニング
ゼロ秒思考トレーニングのやり方としては、前項のようなスタイルが推奨されているわけですが、実は私はその通りにはやっていません。
様々な事情から、別のやり方を採用したほうが自分には合っていると判断したためです。
この判断が正しいかどうかはまだ結論が出ていないのですが、自分なりに考えてアレンジすること自体は悪くない姿勢だろうと考えています。
ここでは、私なりのやり方がどんなものであるかについて解説しましょう。
パソコンにキーボード入力をする
まず、私は手書きをしていません。A4の用紙は持っているのですが、普段使っているデスクがそのA4の用紙をしっかりと広げられる状況にないため、軽い気持ちで手書きできないという事情があったのです。
そのため、パソコンにキーボード入力をするという方法で、自分流にゼロ秒思考トレーニングを取り入れることにしました。
私のこの方法には、もちろんメリットとデメリットが存在します。
メリットとしては、自分が書いたものを検索しやすいことが挙げられるでしょう。
テーマ別に後から整理するのも簡単ですし、特定のキーワードで検索すれば、過去にどのようなことを書いたのかを簡単にチェックすることができるのです。
詳しくは後で語りますが、私は小説のアイディアを出すためにもゼロ秒思考トレーニングを利用しているので、後で読み返すとか、検索するといった機能がおおいに役に立っているのです。
一方でデメリットとしては……これはあくまで予想なのですが、手書きをしないと、脳に与える刺激がちょっと弱くなるかもしれないな、とは考えています。
どこぞの研究によれば、文章を手書きすることは、脳に対してとても良い刺激になるのだとか。
高速で思考を書き留めるにあたって、その手書きをやらずにキーボード入力で済ませてしまうと、もしかしたら「脳を使い切れていない」みたいなことになるのかもしれません。
実感としては、なかなかわかりづらいところですが。
もしあなたが、しっかりと手書きできる環境を持っているのであれば、著者が主張している通りのやり方でこのトレーニングをするのが良いのではないでしょうか。
そのうえで、やはりパソコンを使って整理や検索を強化したほうが自分向きだと思ったのであれば、パソコンに移行すれば良いと思います。
かなり頻繁に読み返す
すでに述べたように、著者の主張によれば、大事なのはアウトプットすること自体であって、その内容を読み返すのはさほど気にかけるべきことではないそうです。
しかし、私は自分の書いたものをかなり頻繁に読み返しています。
理由も先述した通り。私はゼロ秒思考トレーニングを、アイディア出しに使う頻度が高いからです。
自分が書いたものを読み返して、そこからさらに発想を膨らませていくという作業が、私の目的にとってはとても大切なわけです。
この点については、特にデメリットはないものと思われます。
頻繁に読み返したからといって、そのことで思考が縛られてしまったり、限定的になってしまったりといったことはたぶんないでしょう。
あなたも、ご自身の用途において頻繁に読み返すことが必要なのであれば、ためらうことなく読み返せばよいのではないかと思います。
ゼロ秒思考トレーニングの応用
ゼロ秒思考トレーニングの基本はここまで解説した通りですが、ここではその応用の仕方について、解説――というか、私なりの見解を述べていきたいと思います。
多くの物事がそうであるように、ゼロ秒思考トレーニングもまた、自分自身の用途に合わせてしっかりカスタマイズしていくことで、より強力なツールとなっていくのではないでしょうか。
考え事をするときは常にゼロ秒思考トレーニング
私はゼロ秒思考に出会って以来、考えを深めたり広げたりしなければならないときには、常にゼロ秒思考トレーニングを実行するようになりました。
このスタイルを取り入れて初めて、私はこれまで自分が「考え事」と呼んできたものが、単なる堂々巡りに毛が生えただけのものであったことに気づきました。
自分では脳みそを振り絞って全力で思考しているつもりだったのに、実際には同じ発想を何度も反芻したり、その発想に対して感情的になったりしているだけだったのです。
そのような行為をいくら繰り返しても、進みたい方向にちゃんと進むことなどできませんよね。
例えば、私は「外を歩きながら考え事をする」ことがどうしてもできずに悩んでいました。
昔の偉人の生涯を調べてみると、よく「散歩をしながら作品を考えた」みたいなエピソードが出てきます。
私もそういうことがしたいと思ってきたのですが、どうしても歩きながらでは思考をうまく深められず、悔しい思いをしていたのです。
しかしゼロ秒思考に出会ったことで、そもそもそのような偉人達の所業を真似する必要などないのだという悟りを得ました。
考え事を深めたいのであれば、それを次々と書き留めていって、書き留めた内容を目で見ながら、その上にさらに思考を重ねていけばいいのです。
私はこれにより、以前よりずっと「思考の時短」ができるようになりました。
騙されたと思って、ゼロ秒思考トレーニングをしながら考え事をしてみてください。
それまで堂々巡りに陥っていた場面でも、嘘のように前に進むことができるようになりますよ。
アイディア出しに最適
何度も強調したいことなので、ここでも解説します。
考えを深めるとか、感情を整理するといったことにもゼロ秒思考トレーニングは有効ですが、私が最もありがたく使っているのは、アイディア出しにおいてです。
具体的には、私の場合はブログと小説ですね。その両方において、ネタを考えたり、そのネタを深めていったりするのに、ゼロ秒思考トレーニングは大変役に立っているのです。
それまでの私は、何もない虚空を見つめながら、ただひたすら脳みそだけを回し続けると言うアイディア出しの方法を採っていました。
しかしそれでは、満足のいくようなペースでアイディアを生み出すことはできませんでした。たまの閃きを待つしかなかったのです。
それに対して、ゼロ秒思考トレーニングを使ってアイディア出しに勤しむと――まあもちろん「次から次へと途切れることなく何でも思いつく」とまではいきませんが、でも以前よりずっと効率よくアイディアを生み出し、それを育てることができるようになりました。
ちなみに、アイディア出しにゼロ秒思考トレーニングを使う場合は、1分という制限時間をもう少し拡張した方がいいかもしれません。
そのとき出したいアイディアをテーマに設定し、そのテーマについて3分ぐらい使って思いつきを書きまくるのが、より生産的なやり方ではないかと個人的には考えています。
もちろん、時間を3倍にしたからといって、ゆっくり考えてはいけません。あくまでも高速で思考を書き殴る点は同じ。3倍の時間で3倍の量を目指すのです。
アイディアが浮かぶかどうかというのは、「時間に比例して質が高まっていくわけではない」ものの代表例です。
まさにゼロ秒思考トレーニングを利用すべきところ。今までの自分にはあり得なかった生産性を期待しても、裏切られることはないはずです。
おわりに
以上、ゼロ秒思考トレーニングの基礎と、その応用について解説いたしました。
もちろんゼロ秒思考は魔法ではありませんので、何もかもがコレによって物凄くとてつもなく上手く行く、とまでは言い切れません。
しかし、私としては強く推したいんですよね。
これまで様々な思考力アップの方法論を試してきたのですが、これほど自分の脳みそのポテンシャルを刺激するものに出会ったのは初めてだからです。
この感動を共有したくて、今回この記事を書いてみた次第です。
個人的には、特に小説を書いている人達に、ぜひ試してみていただきたいですね。
中でも設定作りに苦戦するタイプの人には、ゼロ秒思考トレーニングによって、自分の発想が自分の自我を超えて展開していく面白さをぜひ味わっていただきたいと思います。
一緒にバリバリと生産していきましょう。