山野藍さんの漫画『月色のインベーダー』第2巻が発売されました。
この第2巻を持って、本作はラストとなります。
好きな作品に対して、この言葉を使うのはためらわれるのですが……いわゆる打ち切りに遭ったということなのでしょう。
個人的にはとても残念な話です。
その最後を看取るという意味も込めて、第2巻の感想を書いていきたいと思います。
その前に、第1巻について知らないという方がおられましたら、過去に感想記事も書いたことがありますので、まずはそちらをお読みいただければと思います。
無難なまとめ方
この最終第2巻の感想を一言で表すのであれば、次のようになります。
「なかなか綺麗にまとめたのではないだろうか」
主人公・辰ヶ谷朔馬の片思いの相手・水望月呼に寄生した異星人ルナーですが、第2巻の途中で、ついにその正体が明らかになります。
ここで話は大きくスケールアップしまして、人類の存続に関わる危険な存在であるということが、べつの異性人の口から語られることになります。
その事実を前に、朔馬が何を思うのか、どのように行動するのか――というのがクライマックスのテーマとなっていたわけですが、個人的にはとても無難に仕上がっていたのではないでしょうか。
全2巻ということで、大きくて長い物語が終了するときのようなカタルシスを作るのは難しかったと思うのですが、限られた尺の中で頑張っているのが感じられました。
ここで細かいところまでネタバレすることは避けますが、ラストの数ページからはしっかりとこみ上げてくるものを感じましたし、描くべきことを描くことと、良い意味で「この先」への余韻を残すことを、きちんと両立させていたように思います。
本記事のタイトルにも挙げたように、終盤の展開の中では、ルナーが己のアイデンティティーについて激しく悩むシーンが多く登場し、それがなんともいじらしく感じられましたね。
本来自分にはない「心」というものを、寄生した人間の体を通して知る、という展開は、ありきたりと言えばありきたりなのかもしれませんが、作品を好きになった人間にとっては、感じ入るのに十分なものでした。
私はこの作者さんの絵柄がとても好みなので、ルナーの泣き顔はとても心に響くものがありましたね。
減ってしまった脚線美
一方で残念だったのは、第2巻に入ってから、ルナーの脚線美が、第1巻の頃と比べてだいぶ疎かになっていたということです。
相変わらず彼女は学校へも靴下を履いていかず、校舎の中では制服裸足で動き回っているのですが、そのスラッとした足が、あまり強調されなくなってしまったんですよね。
描かれていたとしても、心なしか雑であることが多かったように思います。
これが何によるものなのかは、ちょっとわかりません。
もしかしたら、裸足で動き回るヒロインというものが世間的にはあまり受けず、それを何らかのかたちで察知した作者さんが、描写を控えるようになったのかもしれません。
もしそういうことがあったのであれば、己の趣味嗜好のマイナーさを呪いながら涙を流すしかないのですが……真相は果たして。
ただ、まるでそのぶんを補うかのように、表紙では素晴らしい制服裸足を見せてくれたので、とりあえずはそれで心を慰めることにします。
引用元:第2巻表紙
また、作中ではローファーのかかとを潰して履いている描写も少しだけ入っていたので、それもある程度は救いになりました。
引用元:第2巻P123
ヒロインが制服裸足で活動する漫画というのはそう滅多にあるものではないので、つくづくこの作品が打ち切られてしまったのは残念に思います。
打ち切りはどの段階で決まったのか?
外野がいくら推測しても仕方のないことなのですが、どうしても浮き上がってくる疑問があります。
一体、打ち切りはどの段階で決まってしまったのでしょうか?
個人的には、第1巻は内容的にとても面白かったし、第2巻に入ってからも、中だるみのようなものはまったく感じられませんでした。
なので、一体どんなところで人気が低下してしまったのか、私にはまったく想像がつかないのです。
もちろん、本作は漫画雑誌に連載されていたものですから、その雑誌の他の漫画作品がより素晴らしかったのであれば、相対評価で打ち切りの対象になってしまうことはあるでしょう。
私は本作が連載されていた『ウルトラジャンプ』を読んでいないので、その辺りについては、自分の体感をもって語ることはできません。
ただ……他の作品はそんなに面白いものばかりだったのでしょうか?
個人的な愚痴のようなものを言わせていただくのであれば、「ウルジャンの読者たちは見る目がなかったんだなあ」とでもカマしておきたいところです。
設定も面白く、絵も綺麗な制服裸足漫画がぞんざいに扱われてしまうなんて、理不尽だとは思いませんか?
作者の山野藍さんには、これに懲りる(?)ことなく、次回作でも何らかのかたちで制服裸足の女性キャラを活躍させてほしいと心から思います。
各論
それでは、要素ごとに改めて感想を書いていきましょう。
キャラクター
キャラクターは皆、良い味を出していたように思います。
主人公・朔馬は程よく冷静で程よく熱く、私が苦手としている「青春の空回り」のようなことをあまりしないので、個人的には好感が持てました。
ヒロインのルナーは、先述した通り、第2巻では己の中に芽生えた新たな心に戸惑う描写が強調されており、それがとても可愛らしかったです。
これでもっと裸足が強調されていたら、最後の最後まで本当に素晴らしい存在だったのですが、そこだけが少し残念だなあというところ。
あと欲を言えば、ヒロインの体の本来の持ち主である月呼が意識を取り戻した後も、ルナーの影響で「なぜか靴下を履きたくない」気持ちが残り、素足履きを続けてくれるラストだったら個人的には最高だったのですが、さすがにそれは叶いませんでした。
主人公の幼馴染である日南さんは、第1巻ですでにその純情な気持ちを読者に晒してしまっているため、第2巻の描写はそのほとんどが主人公への想いを持て余すような種類のものでした。
そのことと、ルナーを狙う異星人の存在との繋げ方がとても自然で、私は良かったと思います。
今回新たに登場した異星人は、猫型で、地球では野良猫のふりをしてやり過ごしているという設定だったのですが、この辺りも無難に面白くできていたのではないでしょうか。
本作に登場する異星人は皆、地球人から見て異質なところがあまりなく、知的生命体はどれも似るものなのかもしれないと思わせるようなキャラクター造形をしています。
それがユーモアとしてきちんと成立していたので、私は楽しめましたね。
絵
本作の絵柄はとても私好みだったので、そこは最後まで楽しむことができました。
ただ、すでに述べたとおり、ルナーの裸足描写が多少雑になっていたのが、残念なポイントと言えばそうなります。
私は作者の山野藍さんについてはまったく知識がないのですが、どのようなキャリアを持った漫画家さんなのでしょうか?
この絵柄と画力は本当に素晴らしいので、これからもさらに精力的にお仕事を続けて、磨きをかけていってほしいところです。
そしてもし、ヒロインを裸足にすることが作者さんの趣味の範疇であったのであれば、決してそれを捨てることなく、今後の作品においても積極的に出していってほしいところだと思います。
ストーリー
なにぶん打ち切りになったわけですから、ストーリー展開のすべてを、まるで作者さんが好きなように作ったかのように評価するのは、公正ではないかもしれません。
少なからず、物語を閉じるために無理をした部分もあるでしょう。
その辺りについては、作者さんも泣く泣くやっていたところであるはずなので、そっとしておいてあげたい気持ちがあります。
ただ、先述したように、私としては、特に展開に無理は感じなかったんですよね。
恐らくはルナーの正体が明かされる段階では、すでに打ち切りモードでお話を組み立てていたのだと推測できますが、「急に物語を畳み始めたぞ」という感覚はあまりありませんでした。
なので、終わってしまったのはとても寂しいことですが、後味は全然悪くないというのが正直な評価です。
もし人気がきちんと出ており、連載が長期にわたって続いたとしたら、一体どのような展開になっていたのでしょうか?
他にもいろいろと魅力的な新キャラが登場していたのでしょうか?
その辺は今さら考えても仕方のないことではあるのですが、個人的に気にいっていた作品だけに、様々な「もしも」が脳内と駆け巡ってしまうところです。
作者さんには、ユーモアとシリアスをうまく両立させる力があると思いますし、「寒くない熱さ」を具現するセンスも備わっていると思いますので、それらを次回以降の作品にもしっかり活かしてくれたら、とても嬉しく思いますね。
おわりに
以上、『月色のインベーダー』最終第2巻の感想でした。
残念ながら全2巻という短い作品になってしまったわけですが、これを良い方向に捉えるのであれば、とても他人に勧めやすい、ということは言えます。
なので、ここではその点を前向きに捉え、ぜひ皆さんにこの全2巻の佳作を手に取っていただきたい、と締めておきたいと思います。
特に、私と同じく制服裸足の女性キャラクターに強い魅力を感じる方は、ぜひ本作をコレクションに加えてみてください。
なかなかお目にかかれそうでかからない描写を、じっくりと堪能できることと思います。
改めまして、作者の山野藍さんの次回作に、様々な面で期待をしたいと思います。