大量の漫画の積ん読を少しずつ消化して感想を書いていく企画の、第7弾です。
今回は初めて、10段階評価の9点をマークする作品が出ました。
ここまで点数が高いと、最初から独立した記事にすべきなのではないかという案が出てきて、またいろいろ悩むことになったのですが、とりあえず今回はこの企画の範疇で感想を書くに留めた次第。
ちなみに、10点満点をつける勇気はたぶん出ないので、この企画の実質上の最高得点が9点でしょう。同様に、最低点も3点くらいに留まるものと思われます。
「面白さ」が均等に10分割されて★になっているわけではない点、ご理解いただければと思います。
植芝理一『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』1巻
オススメ度:★★★★★★★★★☆
亡くなった父の記憶(高校時代の母とのやり取り)がフラッシュ・バックする少年、鈴木実が、そのせいで現在の母に恋をしてしまっているという、一風変わった設定から物語が展開する作品。
作者の植芝さん、前作『謎の彼女X』に続いて、狂おしいところを攻めてきました。
いや、この設定、人によってはただ一言「気持ち悪い」で切って捨てて終わりなんだろうなとは思うんですよ。
実のところ、植芝さんご自身も、あとがきで「このマンガのコピーはことごとく気持ち悪い」などと感想を漏らしており、その辺はまあ、その通りなわけです。
その上でなお、面白味を感じられるかどうかなのですが……。
私には結構真ん中近くに突き刺さりましたね。
新鮮味があるし、仲の良い親子は見ていて悪いものではないし、上手な話の組み立て方が、主人公の誰にも言えない感情に対する悶々をしっかり支えている。
これは面白いです。
母親の綾は漫画家をやっており(高校時代は漫研所属)、そこ繋がりで生まれる様々な小ネタも効いています。
また職業柄、家にいることが多いわけですから、息子である主人公との接点も多く、作劇的にも都合が良い。
そして何より、現在の母も、高校時代にまったく劣らぬ可愛らしさを備えているのが、とても良いんですよね。
この辺り、主人公と同じ高校生くらいの読者だと、歳上趣味がない限りピンと来ないかもしれないのですが、そこそこの歳になっていれば、女性の好みにかかわらず理解できるところではないかと。
この第1巻は、Kindle無料セールのときに購入したものなので、まだ本作に対してまともな対価を支払っていないのですが……これは続きのために支払いたくなりますね。
そのときは、独立した感想記事を書くかもしれませんので、ぜひお読みいただければと思います。
そんなわけで、本作はオススメです。
瀬尾公治『Princess Lucia』1巻
オススメ度:★★★★★★★☆☆☆
平成6年6月6日6時6分6秒に生まれた少年・小泉ユタが、魔界の姫・ルシアに自分とのあいだに子供を作るよう求められるラブコメ。
本作の一番の面白味は、天使と悪魔が住む「天界」「魔界」が、いわゆるどこかべつの世界のことではなく、この世におけるいわば縄張りのことを指しているところでしょう。
なので登場する天使も悪魔も、皆人間社会に溶け込み、それぞれの生活を持っています。
ルシアの場合、紛れもなく魔王の娘なのですが、その実態は駅前のラーメン屋(その16坪の土地は魔界ということになる)の一人娘。落ちぶれに落ちぶれてそうなったのだとか。
この辺の設定から想像がつくと思いますが、全体として「真面目な風でちょっとへっぽこ」なノリがあり、それが瀬尾さんの頭身の高い絵柄との組み合わせで、不思議な輝きを放っています。
ルシアの力は本物で、いざとなれば大きな破壊をもたらすこともできるのですが、通常その力を振るうことはなく、とても人間的。その一方で、ユタに自分を悪魔だと信じさせるために「目からビーム」であちこち壊していったりもする。
そういう、ちょっとおかしなリアリティの在り方が、クセになるんですよね。
ちょっと残念だったのは、えっちいサービスが中途半端だったところです。
1話に1回くらい、何らかのアクシデントで服が脱げるシーンがあるのですが、よく見ると1コマだけ申し訳程度に胸の先っぽを描いているとか、そういうレベルなんです。
いっそまったく見せないなら割り切れるのですが、そういうわけでもないので、凄く「勿体ぶっている」ように感じられ、それがフラストレーションといえばフラストレーションでした。
古閑裕一郎『となりの山田さん』1巻
オススメ度:★★★★★★☆☆☆☆
極端に女性が苦手な男子高校生・武藤頑磨が、小学校からずっと同じクラスで隣の席の女子・山田花子のメガネ無しの素顔を見たことから、彼女に恋をしてしまうラブコメ。
第1巻で物語の中核を担っていたのは、山田さんの謎。異常な怪力を持ち、住所になっている場所は原っぱ。読者はそこでいろいろな可能性を考えながら読み進めるわけですが、この巻ではそれが明かされることはありませんでした。
しかし山田さんが何者であるにせよ、読んでいて明らかにわかるのは、彼女も頑磨に好意を持っており、ちゃんと告白すれば今すぐにでも進展があるのだろうなということ。
ところが頑磨はそれに気づかず――というのがこの手の作品のお約束。お互いに「好きな人がいる」ことだけを中途半端に明かしあうことで、認識は余計にこじれていきます。
そこに、頑磨を好きなクラス委員長も加わって、あとはまあご想像の通り。
全体の印象として、山田さんの謎以外の部分は、どこかで見たような要素を、どこかで見たようなかたちで料理しているに過ぎません。
なので面白さのほぼすべてが、山田さんの素性をどう隠し、どう明かし、それをもとにどう新しい展開に繋げていくかに懸かっているのですが……。
率直な感想として「引っ張るのは良かったけど、途中で飽きてきたかな」というところでした。
「恥ずかしがって言いたいことを言えない」展開って、続けられるとだんだんイライラしてくるんですよね。同じパターンの繰り返しになるので。
締めの部分で、山田さんの正体に関する大きな展開があり、恐らく次巻で少なくともその一端は明らかになると思われるのですが、面白く転がっていくのかどうか。
もう一歩、乗り切れないものがあったな、という感想です。
あと、これは身も蓋もないアレですが、山田さんがそこまで可愛く見えない……。
【前後の記事】