今日は、山野藍さんの漫画『月色のインベーダー』第1巻の感想を書いてみたいと思います。
この漫画を知るきっかけは本当に偶然だったのですが、結論から言いますと、とても良い出会いとなりました。
その辺りが上手く伝わるものになっていれば幸いです。
なお、当記事で使用している画像は、すべて集英社刊『月色のインベーダー』第1巻からの引用であり、著作権は作者と出版社に帰属します。ご了承ください。
あらすじ
天文部に所属する辰ヶ谷朔馬は、夏休み最後の日に、300年に一度の天文現象「アップル・ムーン」を観測するため、片思いの相手・水望月呼と共に海に出向いていた。
天文部の課題としての観測だったのだが、朔馬は密かに、この機会に自分の思いを伝えようと心に決めていた。
そんな折、突然のゲリラ豪雨。観測は中止となり、雨宿りする二人。高まる雰囲気。
だが、朔馬がいざ告白しようとしたそのとき、突然の土砂崩れに巻き込まれ、月呼は呼吸も脈拍もない状態に陥る。
絶望する朔馬だったが、そんな月呼の中に、漂流中だった異星人が寄生。彼女はその異星人に乗っ取られるかたちで仮の蘇生を果たす。
以来朔馬は、地球のことをろくに知らないその「月呼の肉体を持った異星人」と、波乱万丈な異星人間コミュニケーションを取り始めることになった――。
通奏低音としてのコメディ要素
本作は、テーマ的にはシリアスなものを扱っています。
想い人の突然の死。異星人とのコンタクト。生態のまるで異なる者との、手探りのコミュニケーション。
絵柄と合わせて、これらは一見すると、どれも非常に重くとることが可能なものとなっています。
実際、そちらの方面に専念しようと思えば、いくらでも重苦しいものにできるでしょう。そういうポテンシャルを備えているのが、読んでいてはっきりとわかります。
しかし本作は、そのような展開のときであっても、場面のどこかしらに、何かしらコメディ的なテイストを混ぜ込んでおり、それが大きな特徴となっています。
引用元:P16
シリアスな土台を用意したし、それに積極的に抗いはしないが、完全なシリアスをやるつもりはない――これは、そうはっきり宣言しているようなものでしょう。
あるいは、後々それを少しずつ変化させていくつもりなのかもしれません。しかしともあれ、第1巻の中においては、その意志が常にベースとして表れていました。
これは今の私のように、あまり純度の高いシリアスを消化しづらい心理状態にあり、できれば軽めの物語に触れていきたいと思っている読者には、ありがたく機能します。
逆に、(表紙やあらすじから想像できるような)シリアスなものを読みたかった人からすると、いちいち冷や水を浴びせられるような気持ちになるかも知れません。
これは好みの分かれるところなので、まずこの点を事前に知っておくべきだと私は思いました。
制服裸足の異星人
月呼に寄生した異星人は、寄生型の生命体であるがゆえに、名前というものを持っていませんでした。
そこで、本体としての月呼(朔馬は「水望さん」と呼ぶ)と、寄生している現在の異星人の意識を呼び分けるべく、朔馬は異星人に「ルナー」という名を与えます。
これは、たまたま月呼が履いていたパンツのメーカー名を、そのまま採用したもの。
このルナー、地球人の「服を着る」という習慣が、感覚的にどうも合わないと訴えます。
引用元:P33
もちろん何も着ないで生活するわけにはいかないので、一応服を着ること自体は受け入れるのですが、どうしても気に入らないのが靴下。
というわけで、学校でふと朔馬が気づいたら、ルナーは靴下も上履きも履かず、制服裸足でうろつき回るというアクロバットを披露していたことが発覚。
引用元:P72
以降、学校内にいるときのルナーは、常に制服裸足の姿で描かれることになります。
外を歩くときはさすがにローファーを履くようなのですが、その際にも靴下はなし。この辺りの描写は徹底されています。
引用元:P93、P102
一人の裸足フェチとして言わせてください。
この設定、本当にありがたいです!
というか、そもそも本作との出会いは、二次元キャラの裸足に関する話題を扱うBBSで、とある方が紹介されていたのを目にしたことがきっかけだったりします。
そのとき貼られていた何枚かの画像に惹かれて、ほとんど衝動的に購入し、今回読ませていただいた次第。
同好の士には、今回引用している画像だけでも、その「美味しさ」が伝わるのではないかと思います。
裸足の描き方も、色気があってなかなかに素晴らしい。
とにかくほとんどの場面においてルナーは制服裸足を貫いているので、私としてはこの点だけでも、強く強く本作を推していきたいですね。
私はもう、このことだけで十二分に元を取ったと心底思っています。
各論1:ストーリー
さて、では各要素に分けて、感想を述べていきたいと思います。
まずはストーリー。
すでに述べたように、本作は想い人に寄生した異星人との交流が主軸になっています。
地球に飛来するだけあって、知能の高い生命体ではあるのですが、なにぶん地球の在りように馴染んでいないため、日常生活レベルではトラブルを連発することになります。
中でも一番重かったのは、地球人が「口から他の生物を摂取して生きるタイプ」であることを、ルナーがどうしても受け入れられないくだりでしょうか。
引用元:P96
こういうことがあるたびに、朔馬は奮闘することになります。
この件の場合、朔馬は料理を得意としているので、とにかく作れる限りの種類の料理を作って、何とか食べさせようと必死になっていました。
そんな風に、朔馬の生活はすっかりドタバタしたものになってしまったわけですが、本作は決して一話完結の日常物には留まっていません。
ルナーの変化、そして果たして月呼本体は単独で生きることができるようになるのか――冒頭でも書いたように、テーマ的にはとてもシリアスなものが進行しているのです。
特に物語をこれから動かしていきそうなのは、ルナーが時折、自分の肉体に異変を感じる現象です。
それがいわゆるロマンス的なものであることは、描写から明らかなのですが、それが生前の月呼が抱いていた感情の発露に過ぎないのか、それともルナーという個体にもそれが伝搬しているのか、その辺りは謎として提示されているのです。
引用元:P43
次巻以降では、その辺りが掘り下げられそうな雰囲気もあり、また少しテイストが変わっていくのかなという期待と不安を感じるところです。
各論2:絵
一言でいうと、線がとても綺麗です。そして造形がしっかりしている。
身体描写を中心として、物の質感がよく出ており、それが作品世界をしっかり読者の脳内に定着させてくれます。
その気になれば、お色気を強調することもできると思うのですが、本作では今のところ、そちらに走る様子はありません。
いや、裸足フェチの私からしてみれば、ルナーの制服裸足はすでにお色気要素以外の何物でもないのですが、一般的な観点からすれば、まったくと言っていいほどそういったテイストはないということになるでしょう。
この辺り、絵柄的にはちょっともったいないなと思うところもありますが、一方で内容を考えると、これで正解なのかなという気持ちにもなります。
まあ、完全に好みですね。お色気というのは、ねじ込める限りねじ込んでいけという人もいれば、逆に必要最小限に留めてくれという人もいる要素ですので……。
いずれにせよ綺麗な絵を描ける作者さんで、シリアスタッチとコメディタッチの両方に振れる器用さも持っておられます。
この点は第1巻の時点でも、遺憾なく発揮されていますね。
各論3:キャラクター
主人公・朔馬は思春期真っ只中の恋する少年ですが、斜に構えたところとか、あるいは年頃ならではの暴走気味のところがなく、安心して見ていられます。
人によっては、「学生主人公は若さゆえに誤ってナンボ」なのかもしれませんし、そういう人にはやや退屈なキャラクターに映るのかもしれませんが、私にとっては好感度の高い主人公ですね。
ルナーも、先述したように「地球のことがわかっていない」という意味では危なっかしいのですが、性格的には冷静沈着で温厚ですし、地球人的にいわゆる「難のある」ところは見られません。
なので、この2人の物語はトラブルに次ぐトラブルではあるものの、そこに不快感のたぐいは一切ない。
私はそこを気に入りました。
個人的に、問題ある人格がこじれを生むような展開って、ちょっときついんですよね。
彼ら2人の他には、べつの異星人が1人、そして朔馬の幼馴染の女子が1人、大きな脇役として登場します。
異星人・アンタレス系第8星人は、希少種であるルナーを捕獲して、高く売り飛ばそうと目論んでいる「ハンター」で、第1巻では2度にわたって登場します。
しかし、彼女の捕獲作戦はいつも失敗することになる。
その主な理由は、数多の星の民の中でも、地球人がもっとも強く凶悪だから――というもの。
そう、本作においては、異星人は文明こそ進んでいるものの、戦闘能力的にはまったくダメダメで、文化系の朔馬でも簡単にヒネってしまえる程度の存在なのです。
引用元:P45
この辺りの設定は、素直に面白いと思いましたね。
まあ厳密に考えていけば、地球にやって来る異星人ならもうちょっと技術的な対処を施してくるのではないかとか、いろいろあるのですが、ここはシンプルに楽しむところかと。
幼馴染の日南は、学校では優等生で通っており、ネットでは結構な有名人でもあったりする女子。
それだけ聞くと、とても接しやすい人となりを想像するところですが、なぜか朔馬にだけは、あれこれとキツめのちょっかいを出してくるという面があります。
引用元:P125
その理由は第1巻中でほんのり明らかにされるのですが、まあそこは想像通りのやつで、意外性とかを求めるところではありません。
この子のちょっかいを本気で鬱陶しいと思うか否かは、意見が分かれるのではないかなと思いました。
というのも、ギャグ調で描かれてはいるものの、朔馬がされてきたことって、結構本気でイヤな内容なんですよね。
私は正直、ちょっとこの子、度が過ぎているなと思った派です。
大真面目に受け取るものではないとわかりつつ、上手く楽しむことができませんでした。
まあでも、この日南さんはこれからどんどん可愛らしい面が描かれていくのではないかという期待の持てるキャラクターではあります。
次巻以降、そういう幅の広がりに期待したいところですね。
おわりに
本作との出会いは先述しましたが、本当に偶然です。その方が本作について書き込まなかったら、今も知らないままでした。
制服裸足で惹かれて、最初はそれだけを目当てにポチったわけですが、結果としてはそれ以外の要素も含めて、良い買い物をしたと思っています。
ジャンルがはっきりしているようで、意外とその範疇に留まらないところもあり、一言ではまとめられないのですが、ここまで書いてきたことに何かしらピンと来るもののあった方は、ぜひ読んでみてはいかがかでしょうか。
以上、『月色のインベーダー』第1巻の感想でした。
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