天国的底辺

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小説の執筆速度――1200/6000の苦悩

 今日はタイトルにあるとおり、小説の執筆速度について書いてみたいと思います。

 最初に定義を確認しておきますと、ここでいう速度とは「どれくらいの期間で作品を仕上げられるか」ではなく、「どれくらいの速さで文章を入力できるか」という、より原始的なものになります。

 

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時速1,200文字の字書き

 これを読んでいるあなたは、小説を書く人でしょうか? あるいは小説でなくとも、何かまとまった文章を書く生活をしている人でしょうか?

 もし書く人であるならば、これまでに何度となく、次のようなことを考えたことがあるのではないかと思います。

「もっと速く書けるようになりたい」

 

 私は2014年からぽつぽつと小説を書き、新人賞に応募しているのですが、設定とキャラクターを作ってプロットを立てて、さあ本文に取り掛かろうという段階に入ったときに必ず憂鬱になる程度には、執筆速度にコンプレックスがあります。

 私の執筆速度は書き始めた当初からほとんど変わっておらず、だいたい1時間に1,200文字というペースです。

 1日の執筆時間は日によって(ノリによって)割と変化しますが、平均すると約2時間。その2時間でまあだいたい2,400文字くらい書くことになるわけですね。

 

 文章には必ず書きやすいところと書きにくいところがあるものですが、私の場合は1日ごとに区切るとそのバランスはほぼ均されていて、時間あたりの執筆量は毎日同じくらいになります。

「今日はたくさん書けた」あるいは「あまり書けなかった」ということがない。

 良くも悪くも、時速1,200文字というのが固定化してしまっている次第です。

 良い面としては、応募小説のような枚数制限のあるものを、締切からの逆算で書ける。今まで狙った時期に遅れたことは一度もありません。

 悪い面としては、予定より早く書き上げてべつの何かに取り組む、ということはまず期待できないというのが挙げられます。

 

1つの作品にかかる時間

 しかしこの時速1,200文字、率直な感想といたしまして――遅い!

 世の中の「小説を書く人達」の執筆速度が平均するとどれくらいなのかはわかりません。なので、自分がどれくらいの位置にいるのか、正確なところも掴めていません。

 まあ、速筆なほうでないのは確かでしょう。

 しかしそんな他人との比較の問題ではなく、己の生活の中に組み込む作業として、長編小説を書こうというときに時速1,200文字しか出ないというのは、どうしようもなく遅いのです。

 

 私が主戦場にしている電撃大賞は、1ページを42文字×34行とした上で、80~130ページというのが応募規定になっています。

 このフォーマットは他の賞も含めたスタンダードのように認識されており、42文字×34行というページ定義を、俗に”DP”と呼んだりします。「電撃ページ」の略ですね。

 つまり電撃大賞の応募規定は、80~130DPです。

 

 私がこれまでに書いてきた作品は、すべて110DP以上ありました。

 これをざっくり文字数に換算するとどうなるか。

 まず1ページの文字数ですが、改行を考慮して「ページの85%を文字が埋めている」と仮定します(私の作品は改行が少ないのでこんなものでしょう)。

 これを110ページ書くとなると、42×34×0.85×110=133,518。約13万3,000文字。

 これが1作品の大雑把な文字数で、これを時速1,200文字で割ると、約111という数字が出てきます。

 

 つまり、私は1作品あたり、本文の執筆だけで約111時間ほどかけていることになる。

 

遅いことは(場合によっては)諦めること

 111時間! 時給1,000円でバイトしていたら11万円になる数字です……という定番の換算はいいとして、これだけの時間を捻出するには、それなりに他のことを犠牲にしなければならないのは明白でしょう。

 時速1,200文字で長編小説を書くというのは、こういうことなのです。

 まあ専業作家の方なら、これでも成り立つし、十分なのかもしれません。

 でも、まあまあ他のことをやりつつ、その合間を縫って小説を書いている身からしてみると――この執筆速度で長編小説を1本仕上げるというのは、とても「大きな」作業であり、それをする前にはそれに見合った大きな決断・覚悟が必要になるのです。

 

 狙っている賞の締切に間に合うか否か、ひいては作品を作り始めるか否か

 いったん始めると長丁場になることがわかっているがゆえに、そのあたりの決断に大きな制約が加わるわけですね。

 時速1,200文字の世界では、否が応でもこういったことと戦う必要が出てくるわけです。

 

速筆の小説家、森博嗣さん

 さて、一方、プロの世界には森博嗣さんという怪物がおります。

 森さんの執筆速度は、話よれば1時間におよそ6,000文字。実に私の5倍の速さで物語を生成していくことができるそうなのです。

 森さんは長期に渡って、ご自分の日々の記録のようなものを何かしらの媒体で発表しているので(現在はここです)、その執筆生活をおおむね把握することができるのですが、それによれば、他にいろいろなことをしながら、一日のごく一部を使ってササッと1万文字ほどを書いてしまわれる。

 しかも、プロットを立てない執筆スタイルでこのパフォーマンスです。

 

 単純に「羨ましい」というのはあります。

 自分も、6,000文字とまではいかずとも、その2/3の4,000文字くらい書くことができれば、めちゃくちゃ気持ちよく書いていけるだろうになあ、と夢見たことは数知れません。

 しかし、事は気持ちよさだけには留まらない。

 おわかりいただけると思いますが――時速1,200文字と時速6,000文字の速度差は、ある状態において「作品を作るか作らないか」という決断にまで決定的な影響を与える、圧倒的な差なのです。

 

 もし自分に時速6,000文字を書ける能力があったら作り始めていたであろうものが、実際には時速1,200文字しか書けないがゆえに、お蔵入りになる。

 5倍の速度で書けるから作品の量も5倍になる、どころではなく、作品が生まれるか生まれないかの違いにまで繋がってしまうわけです。

 

スピードアップする方法

 ブログも始めてしまった今、私の生活に小説の執筆を組み込むことは、以前よりも難しくなっています(それを承知で、それでもなおブログを始める自分なりの理由がもちろんあったわけですが)。

 そこで思うこと――何とかして執筆速度を上げたい。

 それには執筆のスタイルを大きく変える必要がある。

 

 今の私にとりあえずある選択肢は、まず音声入力ですね。今までキーボードで書いていたわけですが、これを初稿の段階では抜本的に変革する。

 そして初稿に対する態度も改めます。これまでは初めて書く時点でいろいろ整ったものにしており、推敲時にはあまりいじらなくてもよかったのですが、これを捨てる。

 つまり、文章の体裁とか、描写の解像度といったものはいったん脇に置いて、とにかく思いついたことを喋りまくる。誤字脱字なども(後で推敲するときに意味がわからなくなるものを除いては)放置。

 これで時速3,000文字くらいにはまず到達したいと思っているところです。

 

 それくらいの速度が出せれば、先程の計算をすると、約44時間で初稿を上げられるようになる。

 これまでなら執筆を断念していた場面でも、よし書こうと決断できる可能性が高まります。

 

 それから先日記事にしたキャラクターの履歴書についても再考し、プロットをどのくらい細かく立てるかについても作戦を練る。

 それで次の小説に、司法書士試験が終わる7/7から取り組み、9月末締切の令和小説大賞に間に合わせる……ことができれば理想なのですが、果たしてどうなるか。

 

 といったようなことを、現在は考えている次第です。

 

無駄なあがきかもしれませんが

 どこぞの研究によれば、文章を書くという行為は、世間で思われている以上に生まれ持った才能が関わってくるものであると言います。

 村上春樹さんも以前、読者からの質問に対して、同様の主旨のことを回答しておられました。

 そのあたりを考えると、速度的にも内容的にも、自分はこの辺どまりなのかな、という諦めが浮かんでくることもあります。

 しかしもうちょっとあがいてみたい。

 

 まあ要するに、自分は小説を書くのが好きなんですよね。良くも悪くも、読む以上に書くのが好き。

 これからの時代、賞をもらって出版社から紙媒体でデビューするだけがマネタイズの道でもないでしょうから、そこは柔軟に考えていくつもりですが、とにもかくにも、執筆については速度を稼ぐことに邁進したいところです。

 ここを何とかしないと、そもそも続けていくことが難しくなるので。

 

 ……というお話でした。

 スピード、というのは何事においても重要ですよね。スピードアップのために何ができるかを考えることが、結局は量も質も向上させることに繋がったりする。

 4年半留まっていた時速1,200文字の世界から、次は何とか抜け出して、新しい地平を見てみたいところであります。

 

おまけ

 余談ですが、この3,600文字ほどの記事を書くのに費やした時間は、だいたい1時間半くらいです(今回は音声入力ではなく手書きしました)。

 基本的に小説よりはブログのほうが速く書くことができますね。まあいろいろな意味でこちらのほうが「ゆるい」ので。

 

全ての文字書き必見。推敲も校閲も面倒見てくれます。

 

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