天国的底辺

二次元、創作、裸足、その他諸々についての思索で構成されたブログ

コミュ力とは何かを掴める本:『あなたの話はなぜ「通じない」のか』感想

 今日は、だいぶ前に買ったまま積ん読していた本、山田ズーニーさん著『あなたの話はなぜ「通じない」のか』の感想を少し書いてみようと思います。

 このタイミングで積ん読を切り崩したことには理由があるのですが、それについては近いうちにべつの記事で触れる予定であります。 

 

事例を用いて解説するスタイル

 本書はタイトルが示している通り、他人に自分の言いたいことをきちんと伝えるにはどうすればよいか、について著者が語りおろしたものです。

 架空の登場人物を用意し、随所に彼らの会話やメールのやり取りを「事例」として載せるスタイルですが、それはすべて架空の会社内での、仕事上のやり取りとなっています。

 このあたり、もっと他の環境の例(たとえば学校とか)にも触れたかったと感じる方もおられるかもしれないのですが、内容的には人と人とのあらゆる関係性に普遍的なものを扱っているので、私はこれで問題ないと思いました。

 

相手があってのコミュニケーション

 本書の最大の特徴は、読者の言葉を論理的で芯の通ったものにブラッシュアップさせるための言語技術面のレクチャーにとどまらず、「言葉を受け取る相手側の気持ちになってみる」視点が強調されていることです。

 

 人は誰かを正論で諭すとき、自分を相手の上に位置づけている。果たしてそのような視点から発せられた言葉を、相手は聞く気になるだろうか?

 会社にクレームが届いた。相手はこちらの説明をまともに読んでいない。そういう読解力の人に、「説明をきちんと読んでください」と返したところで、相手から納得と会社への印象の回復を引き出すことができるだろうか?

 そのような場合の考え方を、事例に丁寧な解説を加えることで説明していきます。

 

正直者のためのテクニック

 ここで大切なのは、ものの言い方を工夫することは「自分に嘘をつく」ことではないということです。

 人によっては、正直であるとは、言いたいことを言いたい順に、言いたいだけ言うことなのだと考えているかもしれない。

 でもそれは「衝動に正直」なだけです。それでは、自分が伝えたいことが、伝えたいようには伝わらないことが多い。

 

 本書は徹底的に「伝えたいことが正しく伝わったという結果を作る」ことをコンセプトにしており、すべてはそのためのテクニックとして解説されます。

 その発端となる「伝えたいこと」については、嘘があってはそもそも人を納得させるのは難しいし、たとえそれで一時的に上手く行ったように見えても、その後には良い流れは待っていない旨が語られている。

 まずはじめに「心の底から出てきたものを伝えたい」という気持ちがあっての内容であることは、心に留めておくべきでしょう。

 

メディア力――聞いてもらえる自分を作る

 そして、相手に自分の意志を正しく伝えるのに必要な「自身の現状」について、本書では「メディア力」という概念を用います。

 人は同じ言葉であっても、どんな状態の誰から発せられたかによって、まったく異なる受け止め方をする。

 信用がまったく積み重なっていない状態では、どんなに話す内容が正しくても門前払いを食らうかもしれないし、一言目で敵意や上から目線を感じ取られたら、二言目から良いことを言っていても、それをそのまま飲み込んでもらえないかもしれない。

 

 情報発信源としての自分のメディア力が今どんな状態にあるのかを把握し、まずはそれを上げていくことを考えなければ、自分の中にいくら価値のあるものが詰まっていても、相手からはそれがそのようには見えない。

 厄介な現実ですが、本書はその現実を嘆くのではなく真正面から受け入れた上で、ではどうすれば自分をきちんと表現できるのか、その具体的なところに切り込んでいきます。

 事例を用いた平易な説明は、それ自体が著者の言わんとしていることの体現となっており、本書の説得力に繋がっていると私は思いました。

 

Twitterへの特効薬になると思う

 本書を読み終えて真っ先に思ったのは、次のようなことでした。

「Twitterで毎日のように議論のつもりで喧嘩している人達は、2~3日引っ込んでこの本を熟読してみたほうがいいんじゃなかろうか」

 

 まさにあの空間に欠けているものが、皮肉かというほど詰まっているのが本書です。

 Twitterには字数制限があり、また会話の流れを一覧的にチェックしにくいUIになっているため、そもそも議論に向かないサービスであると言われていますが、昨今飛び交っている議論のひどさは、そういう次元ではありません

 自分の言葉を伝えるために相手の気持ちを斟酌するという発想が見られず、まるで「相手のことを考えるのは負けの証」とでも思っているかのように、言いたいことを言いたいように言う。

 そして失敗している。わかってもらえない。

 

 断絶することが目的ならそれでもいいのかもしれませんが、私の観測する限りでは、彼らの多くは「衝動を大切にしちゃってる」だけであって、自分を正しくわかってもらいたい欲はちゃんと持っています。

 なのでいったん立ち止まって、プライドや反骨精神といったものを脇に置いて、本書を読んで実践してみるといいのではないかと、結構本気で思いました。

 

まとめ

「人に何かを伝えたいときには冷静であるべき。それはわかるけど、具体的にどうすれば上手く行くだろうか」

 そういうことを気にしている人に、本書はおすすめです。

 また、かねてから「コミュ力とは何だろう」と問い続けている人にもおすすめですね。その答の一端が、本書によって自然に「ピンと来る」のではないかと思います。

 個人的に、後半に行けば行くほど面白かったので、ぜひ最後まで読んでいただきたいところですね。